華夏の煌き
 懸念したとおりに飢饉の影響が呂家を襲っていた。備蓄もろくにないのに真面目な役人である呂家は自分の分まで貧しい人に食料を分けていたようだ。姉の夫は個人の食料争いに巻き込まれて、ケガがもとでなくなってしまった。独立した子供を頼ったが、すでに家族を持つ子供たちは母親の面倒など見る余裕などなかった。

「ね? わかるでしょ? 王妃になれば飢えないで済むと思うの」
「な、なにを今更?」

 自分が恋人と結ばれたくて入れ替わったのに、また飢えたくないという理由で入れ替われという。

「ばれやしないわよ」
「いいえ。すぐにばれるわ。最近鏡を見ていないの?」
「鏡?」

 双子である彼女たちは両親ですら区別がつかぬほどそっくりだった。今は、顔立ちを変えてしまうほどの年月と人格が見える。常に心労で臥せってきた桃華は愁いを含んだまなざしをそっと鏡に映す。じろりと姉が鏡をのぞき込む。

「あ、あたし?」

 ぎょろりとした白目がちな目はきつく吊り上がり、唇は薄く口角がへの字に下がっている。眉間の皴は深くきつい表情になっている。おそらく、両親にも夫にもわがままを通し、常に高圧的な態度であったのだろう。誠実さと優しさに満ちていれば、独立した子供たちも母親を見捨てるようなことはしない。

「もう入れ替わることはできないわ。でも陛下に頼んでみるわ。ここに置いてもらえるようにと」
「嫌よ。あたしが王妃なのよ! 陛下に全部話すわ! 本当の王妃はあたしですって!」
「そ、それだけはやめて。そんなこと話せばどうなるか……」
「あんたが罰を受けるだけよ! きっと!」
「そ、そんな」

 震える桃華に、姉は勝ち誇った顔を見せた。そこへ宮女から「陛下のおなーりー」と声がかかった。びくっとする桃華を押しのけて、李華はぎらぎらと目を光らせ、腰を落とし、頭を下げ曹隆明を待った。

「面を上げよ」

 曹隆明はゆっくりと李華に声を掛けた後、宮女にまた下がるように言いつけ、桃華に目を向けた。

「へ、陛下」

 慌てて頭を下げる桃華に「よい」と笑んでからまた李華に目を向ける。

「妹君、ごきげんよう」
「陛下! お会いできて光栄でございます。実は大事な話があって参りましたの!」
「大事な話?」
「ええ、ええ。実はあたしと桃華は本当は――」

 そう言いかけた李華の口は、すっと後ろから出てきた黒い影にふさがれる。

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