華夏の煌き
「んー! んー!」
「妹君。それ以上話されるとさすがに命の保証ができないのだ」

 目を見開きもがいている李華を、唖然として見ていた桃華は「あ、あの、陛下……」と震えながらそばに寄ってきた。

「案ずるな。そなたはそこに座っていなさい」

 倒れそうなほど真っ青な顔をしている桃華を座らせ、また隆明は李華に続きを話す。

「そなたは妃の家族なので命までは奪いはせぬ。しかし王朝に危機を招く人物でもあるようだ」
「んー! んー!」
「せめて。選ばせてあげよう。毒杯をあおるか、冷宮で生涯を送るか」

 隆明が手をさっとあげると宮女が白磁の高杯を持ってきた。目の前に出された高杯の中身は毒だとわかると李華は激しく首を振り涙を流した。

「よろしい。ではこの者を冷宮へ」

 全身黒ずくめの人物は、そのまま李華の後頭部に手刀をうち気絶させ運んでいった。胸を抑えている桃華に隆明は静かに話しかける。

「案ずるな。悪いようにはせぬ」
「陛下、陛下……。わたくしは、わたくしは……」
「言わずともよい。事情は分かった。しかしそなたがここに来たということは、そういう縁なのだ」
「陛下……」
「辛かったのだな。最初は、私のことがよほど嫌なのだと思っておったが……」
「そんなこと、そんなことありません。一目見た時から、恋に落ちて……。だけど、選ばれたものでないことがばれてしまうのが怖くて」

 はらはらと涙を流す桃華に、隆明は愛しさを感じる。心の奥のほうで、胡晶鈴に対する思いがさらさらと風化し消えていくのを感じた。

「これからはもっと夫婦らしくいられるであろうか」
「お許しくださるなら、おそばにいさせてください」

 長い年月をかけてやっと、桃華は心を開くことが出来た。これからは堂々と隆明を愛することが出来るのだろうと、熱い喜びの涙を流し続けていた。


 ここ数百年使われていなかった冷宮の重い門が開かれる。かつては王朝に害をなす妃、側室たち専用の牢だった。広々とした空間に、調度品などは何一つなく、寝台と粗末な寝具のみがある寒々しい宮だ。

「出して! だしてえっ!」

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