華夏の煌き
 30年近く過ぎてやっと心を通わせ会う二人に、優しい風が流れる。桃華は初めて安心と幸福を感じている。今、飢えて死んでも心は満たされている。

99 兄と妹
 太極府へと星羅は赴き、兄の朱京樹に会いに行く。水を打ったような静けさを保つ太極府は、そこに勤める人々も植物的というか人間味がないというか、不思議で独特の雰囲気を持つ。京湖と明樹を失う前の星羅であれば静かすぎて落ち着かなかっただろうが、今は喧騒も耳に入らないほど心が閉ざされていた。案内された無機質な客間にじっと座って星羅は待った。音もなく入ってきた京樹が声を掛ける。

「よく来たね」
「あ、ああ京にい」
「どうかしたのかい?」
「実は、少し相談があって。時間は良いかしら」
「いいよ。ちょうど僕のほうも話したいことがあった」
「なあに?」
「いや、星羅から」
「ん……」

 数日前に義父である陸慶明から、息子の徳樹を養子に出さないかという話があったことを伝える。

「どうして公主さまのところへなど」
「それが、実は」

 身の危険が及ぶかもしれないということで、家族にも星羅は王の娘であることを伏せていた。それを初めて京樹に話す。

「なるほど、どうりで」
「驚かないのね」
「うん。太極府長の陳老師が星羅と徳樹の星と陛下の星を良く眺めていたからね。なんとなく」
「黙っていてごめんなさい」
「いいんだ」

 京樹の落ち着いた声と漆黒の瞳に星羅はどんどん落ち着いていく。

「星羅はどうしたいんだい?」
「わたしは……。よくわからない……」 

 徳樹が杏華公主の養子となっても会えなくなることはなかった。むしろ王の曹隆明の後を継ぎ、星羅が軍師となればただの親子関係以上の関わりになるだろう。

「そういう星のもとに徳樹は生まれたのだろう。星羅、君も……」
「義父上はとても良い話だというの。義母上も」
「そうだろうね。この王朝を引き継ぐのだもの。華夏国の権威と尊敬を一身に受けるのだから」
「わたしが手放すことを、徳樹はどう思うかしら」
「手放すとは違うよ。徳樹は星をみても本人を見ても国の天子だとよくわかる」
「ええ、そうね……」

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