華夏の煌き
 陸家を頼り、徳樹を育てることは可能だろうが、彼自身を見ていると王家に入ることが望ましい。軍師省に大人しくついてくる徳樹は、活発な議論に目を輝かせ、地図をじっくりと眺めている。まるで王太子であったころの曹隆明と同じようなまなざしで、華夏国を見ている。軍師として国に仕え、発展に尽力したいと考える星羅とは同じ血族でも、異質のものだ。

「わたしは軍師だけど、徳樹は君主なのだわ」
「結論が途中だけど、いいかな」
「え、ええもちろん」
「実は僕も西国に帰ることになる」
「えっ!?」
「かあさまと西国の状況がわかった。ここに手紙もある」

 京樹は棚から蛇腹の紙をとりだす。ふわっとスパイシーな香りが漂う。西国には紙にも香料が施されているようだ。中身は西国の文字ではなく、華夏国の漢字で書かれていたので星羅にも読むことができた。香りに懐かしさを感じながら読み進めた。

「なっ!」

 顔色を変える星羅が全て読み終えるまで京樹は待つ。読み終わった星羅は蛇腹の手紙を閉じ京樹に返した。

「まさか、かあさまが……」
「ああ、驚いた。そんな大それたことをする人ではなかったから」

 手紙にはラージハニこと京湖が、大王であるバダサンプを暗殺したと書かれてある。バダサンプは実は王族ではなかったことと、彼によって忠臣が排除され、重税を強いていた暴君であったことにより、京湖は大きな罪に問われなかった。そもそも京湖の身分は、バダサンプの身分をはるかにしのぐものであり、人が虫を殺したくらいの格差があった。更に王位継承者がことごとくバダサンプに抹殺されており、なんと京樹にもその継承権が回ってきている。

「京にい、王位につくの?」
「さあ、どうしようか」

 身分制度の厳しい西国に、華夏国で育った京樹が王になればきっと善政を敷くだろうと星羅は思う。

「京にい。王位に就くべきだわ」
「星羅はきっとそういうと思ってたよ」

 ふっと笑む京樹は、父の彰浩にも、母の京湖にもよく似て、優美で誠実そうだった。

「一緒に来ないか?」
「え? 京にいと? 西国に?」
「うん。王妃として」
「ええっ?」

 驚いて星羅は立ち上がった。声が響いたらしく隣から咳払いが聞こえた。

「あ、ご、めんなさい」

 下を向いてまた前を向くと、初めてみる兄ではなく、男としての表情を持つ京樹がいた。

「やだ、なんの冗談?」
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