華夏の煌き
 2人のまた奥の席には王と王妃が座っている。変に思われてはいけないと思い、李華は姿勢を正し、舞を楽しんでいるそぶりを見せる。目の前をカラフルな薄絹が、滑らかな弧を描き、花が開いたり閉じたりするような舞踊はとても美しい。今の時代に奴隷も、宦官もなく、舞踊を生業とする者の地位は低くない。裕福な家の娘でも舞踊団に入っていたりする。艶やかな舞姫たちを眺めると、ますます李華は居心地が悪くなる。双子である桃華とは一卵性でそっくりな美貌を持つ彼女だが、あか抜けた都の女性たちには引け目を感じる。そもそもが姉と違った控えめな性格だからだ。ここまで来たからにはとにかくボロを出さず、自分は『桃華』であると言い聞かせた。

 宴が終り、李華は湯殿に連れていかれ、入浴することになった。熱い湯の表面は真っ赤な薔薇の花びらで埋め尽くされている。花の香りに酔いそうだ。ぼんやりと湯につかっていると、世話係の侍女がやってきて身体を洗い始めたので「自分で――」と、洗う布をとろうとすると「いえ、私の仕事なので」ときっぱりと拒否される。

「そうね。ごめんなさい」
「お許しください。王太子妃さま」
「あとで、洗うのがすごく上手だったと伝えておくわ」
「ありがとうございます!」

 風呂係の侍女は顔を輝かせる。自分の仕事を持ち、評価されることは当然賃金に結び付くのだ。これからは日常的に行っていたこともすべて、侍女たちにさせ彼女たちの生活の糧を奪わないように気を付けようと李華は、身を委ねた。そして李華の仕事は太子をよい気分にさせ、子を産み、育てることになる。自分の役割を考えていると、そろそろ湯から上がる時間だと告げられた。

 寝間着に着替えて、寝台に腰掛ける。敷かれた布団は最高の手触りで柔らかく温かく滑らかだった。初めての触り心地に李華は夢中になり何度も手を滑らせていると「太子さま、到着」と厳かな声がかかった。
 はっと顔を上げると、軽装になった太子の隆明が現れた。彼も入浴の後だろう、麗しい清涼感がある。

「下がってよい」

 供をしてきたものに声をかけると、侍従たちは寝所に入ることなく去った。より静かな空間になる。

「なにか不自由なことがあればすぐに言うといい」
「ありがとうございます」
「今日からよろし頼む」
「こちらこそお願いいたします」

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