華夏の煌き
『俺が上将軍、星妹が軍師になればどんな敵でも打ち破って、母君を救い出せるさ』
まだ軍師になる前の、兄と慕っていたころだった。あの頃は、無邪気に仲良くじゃれているだけだった。
「星羅さんは、がんばって。女性初の大軍師になって欲しいと思ってるわ」
「ありがとう。蒼樹にはかなわないと思うけどがんばるわ」
「星羅さんならきっと立派な軍師になれるど!」
別れを告げ、それぞれ反対方向へ向かった。
「星羅さんは大丈夫かな?」
許仲典が心配そうにちらっと振り返った。
「大丈夫。彼女は強いから」
「おめえのほうが強そうだ」
「そんなことないわよ。あたしはか弱いんだから」
「は、はあ」
「星羅はなんていうか、もともとの志が高いからきっと乗り越えると思う。いざとなれば蒼にいだっているし」
「ふーん」
「ああ、袁幸平もちょっかい出してるし」
「あの女好きが心配だな」
「蒼にいがもうちょっと出ていけばいいんだけどなあ」
「おめえ、案外、星羅さんを心配してるんだな」
「えっ、そうでもないけど」
「前は嫌な奴だったのに、いいやつだな」
「な、なによっ」
「さ、かえろう」
許仲典はきゅっと紅美の手を握る。紅美もそっと握り返す。二人で星を数えながら仲良く家路についた。
102 袁幸平
軍師省から少し離れたところに星羅は小さな家を借りて住んでいる。陸明樹と住んでいた屋敷は手放し、陸家からも離れた。家の前に、豪華な輿が止まっているのが見える。輿のそばの下男が星羅に気づき、中に声を掛けた。御簾があがり中から明るい色合いの中年の男が出てきた。
財務省の袁幸平だ。星羅よりも一回り以上年上の袁幸平は、仕事もできるが、風流であちこちで浮名を流す伊達男だ。キリっとした眉に柔らかい目じりが女人に好評で、物腰は柔らかいのに強引なところもある。女人を喜ばすことに長け、彼を嫌うことが出来る者はいないだろう。
「おかえり。これから食事を一緒にいかがかな?」
柳紅美と許仲典の結婚式で、星羅を見初めた彼は寡婦であることを気にせず誘う。
「袁殿。待っていらしたのですか? 遅くなってしまったので、今日は……」
「ふふっ。待ち続けた男をすこしで哀れだと思ってもらえたら、付き合ってくれないかな?」
いつも断りをいれるが、うまくかわされ食事にいくことになる。これでもう5回目だった。
まだ軍師になる前の、兄と慕っていたころだった。あの頃は、無邪気に仲良くじゃれているだけだった。
「星羅さんは、がんばって。女性初の大軍師になって欲しいと思ってるわ」
「ありがとう。蒼樹にはかなわないと思うけどがんばるわ」
「星羅さんならきっと立派な軍師になれるど!」
別れを告げ、それぞれ反対方向へ向かった。
「星羅さんは大丈夫かな?」
許仲典が心配そうにちらっと振り返った。
「大丈夫。彼女は強いから」
「おめえのほうが強そうだ」
「そんなことないわよ。あたしはか弱いんだから」
「は、はあ」
「星羅はなんていうか、もともとの志が高いからきっと乗り越えると思う。いざとなれば蒼にいだっているし」
「ふーん」
「ああ、袁幸平もちょっかい出してるし」
「あの女好きが心配だな」
「蒼にいがもうちょっと出ていけばいいんだけどなあ」
「おめえ、案外、星羅さんを心配してるんだな」
「えっ、そうでもないけど」
「前は嫌な奴だったのに、いいやつだな」
「な、なによっ」
「さ、かえろう」
許仲典はきゅっと紅美の手を握る。紅美もそっと握り返す。二人で星を数えながら仲良く家路についた。
102 袁幸平
軍師省から少し離れたところに星羅は小さな家を借りて住んでいる。陸明樹と住んでいた屋敷は手放し、陸家からも離れた。家の前に、豪華な輿が止まっているのが見える。輿のそばの下男が星羅に気づき、中に声を掛けた。御簾があがり中から明るい色合いの中年の男が出てきた。
財務省の袁幸平だ。星羅よりも一回り以上年上の袁幸平は、仕事もできるが、風流であちこちで浮名を流す伊達男だ。キリっとした眉に柔らかい目じりが女人に好評で、物腰は柔らかいのに強引なところもある。女人を喜ばすことに長け、彼を嫌うことが出来る者はいないだろう。
「おかえり。これから食事を一緒にいかがかな?」
柳紅美と許仲典の結婚式で、星羅を見初めた彼は寡婦であることを気にせず誘う。
「袁殿。待っていらしたのですか? 遅くなってしまったので、今日は……」
「ふふっ。待ち続けた男をすこしで哀れだと思ってもらえたら、付き合ってくれないかな?」
いつも断りをいれるが、うまくかわされ食事にいくことになる。これでもう5回目だった。