華夏の煌き
 星羅としては袁幸平と酒を飲みたい気分ではないが、一人でじっと過ごす夜もつらかった。明樹のことに集中しないで済むので、ある意味ありがたい。更に袁幸平は、おそらく下心があってもそれを見せることはない。自分に関心が湧くまでゆっくり待っているともいう。星羅は彼を男としてみることは全くないが、知人として心を開きかけている。

「今年は軍師試験に受かったものはおりましたか?」
「いえ、どうも勉学どころではなかったようで希望者も過去最低でした」
「そうなんですかあ。財務省のほうは逆に過去最高に希望者がいましたよ」
「ええー。どうしてかしら」
「お役所勤めは食いっぱぐれがないと思っているのでしょう。それでも軍師省は仕事が厳しく思えるのでしょうね」
「ああ、そうかも。国難の際に一番、力量を発揮させなければいけないのが軍師省ですから」
「うんうん。そんな軍師省にお勤めだなんてあなたは素晴らしい」
「いえ、そんな。もっと役に立てればいいんですが」
「真面目な方ですな。ほら、とりあえず仕事は忘れて飲みましょう」

 なかなかの量を飲んだが、星羅は酔えなかった。袁幸平のすすめるままに飲んでも、心を許してはいないのか思考がマヒすることはない。今度こそ、酔わせてでも隙を作ろうかと思った袁幸平が、先につぶれてしまう。

「あらら、袁どの」
「うーうう。ちょっと休憩……」

 星羅は、外で休憩している袁幸平の下男を呼び、彼を運んで連れて帰ってもらった。

「さあ。わたしも帰ろうかな」

 ひと瓶土産に持ち、朧月夜の照らす道を一人歩いて家路についた。

103 占い師
 一人で静かな夜道を歩く。大通りから一本入ると、店はまばらになっていて人通りも少なくなった。星羅は瓶のふたをとり、一口酒を飲む。

「一人で飲むほうが酔えるかな」

 夫の明樹とはよく酒屋に行って楽しく飲んだ。陽気な彼は酒が入ると更に明るく朗らかになった。

「どうしてかしら、ね」

 遺品を整理していた時に、明樹が星羅に当てただろう文が出てきた。

『私は弱い人間だ。すまない』

 快活で前向きな明樹に弱い部分があろうとは夢にも思わなかった。父親である陸慶明も「明樹は私の母に似ているところがあったようだ」とがっくり肩を落としていた。
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