華夏の煌き
 星羅が後を追わずなんとか生き長らえているのは、明樹の一粒種でもある、息子の徳樹が残っているからだろうか。瓶を傾けまた酒を含む。

「明兄さま……」

 いつかひょっこり顔を出して「なんだ暗いじゃないか。酒でも飲もうぜ」とどこからか出てくるのではないだろうかと、無駄な空想に縋りつく。
 気が付くと瓶は空になっている。

「少し酔ってきたみたい」

 ふらふらし始めた星羅は広い道から狭い道に入る。家を目指して歩いていると、十字路に差し掛かる。

「おや? あんなところに誰か」

 店も民家も建っていない空き地に机を出して座っている者がいる。行燈の火がちらちらしていて、その人物を明るくしたり暗くしたりする。
 近づいてみると、街頭の占い師のようだった。

「そういえば、観てもらったことないな」

 都のあちこちにも、街頭で占っているものがいる。太極府からのスカウトを待っている占い師も多いが、陳老師の眼鏡にかなうものはなかった。
 ふらっと近づき、頭から深くローブをかぶった占い師に声を掛ける。

「観てもらえる?」

 占い師はうつむいたまま頷き「何を観ましょう」と答えた。声で女人だとわかるくらいで、立っている星羅には座って俯く占い師の顔は見えない。

「え、と。母のことを」
「どちらの母を?」
「え? どちら?」

 占い師はこくりと頷き「お二人いるでしょう」と静かに答える。いきなり当てられて星羅は驚いた。

「あ、ああ、では、その、育ての母を」
「わかりました」

 占い師は袖口から紙の束をとり出しかき混ぜ、まとめてから何枚か机に並べる。色々な絵の札が並べられた。星羅にわかるのは、異国の民が描かれていることと、太陽、楽器を拭く人物などだった。

「あなたのお母さまはとてもお元気です。愛しい人との再会も果たしているでしょう。近々、手紙が届くかもしれません」
「そうですか。よかった」

 少しだけ心が温まり、ほっとする。

「あの、生みの母も観てもらえますか?」
「わかりました」

 先ほどの絵の札をまた集めて、混ぜ合わせ並べなおされた。歩いている異国の民と、輪の中で踊る人や、たくさんの棒を見た。

「ずっと旅をしています。自由の身でお元気ですよ。あなたのことをいつも気にかけていますが、お会いになれるのは随分先でしょう」
「随分先……。会えないかもしれないのですか?」
< 228 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop