華夏の煌き
「会う必要があれば、きっと」
「そうですか。でも自由なのですね」
「あなたのことは良いのですか?」
「わたしのこと……」
「あなたは自分で道を切り拓いているのですね。誰かを頼ることなく。でもあなたのことをずっと見守っている方は多いのですよ。そのことをお忘れなく」
「ありがとうございます。では、これを」

 懐から銀貨を出し5枚ほど机に置く。しかし占い師は受け取らない。

「金はいりません。その代わり、あなたの髪を一房ください」 
「髪を?」

 星羅は言われるまま、頭の横にすっと指を入れ一房髪をとりだす。長い髪の先を占い師はそっと撫で「少しだけですから」と異国の刃物でちょきんと手のひらくらいの長さを切った。
 代金が金ではなく髪の毛とは変わった占い師だと思ったが、街頭の占い師に比べ、よく当たっていると思うので、価値が違うのかもしれない。

「これを一つどうぞ。お守りです」

 占い師は腰から下げられるような紐が付いた、小さな布包みを星羅に渡す。

「あの、それだけよく見えているのなら、太極府にお知らせしておきますよ」
「太極府……」
「ええ、太極府では、あの、昔、すごく的中率の高い占い師がいたのですが、今はなかなかそれだけの人がいないようで」
「うふふ。ありがとう。今夜でここの商売は最後なので結構です」
「そうですか。では、これで」
「お元気で」

 占い師にお元気でと言われて、やはり変わった挨拶だと思って星羅はまた道を歩き出した。手にしていた酒瓶がいつの間にかなくなって、代わりに布包みが手の中にある。あっと思って振り返ると、もう占い師の影も形も無くなっていた。


104 母の行方
 兄の朱京樹が帰国してしまう前に、星羅は忙しい合間を縫って太極府に面会に行った。何度も訪れている星羅はもう門番にいちいち身分証を見せることなく通される。長く静かな廊下を通り京樹のいる部屋にたどり着く。

「京にい」
「やあ、よく来たね」

 静かに答える京樹の隣に、太極府長の陳賢路も静かに座っている。

「あ、陳老師。失礼いたします」
「うんうん。よいよい。ゆっくりするがええ。まあ星羅殿も暇ではないだろうが」
「恐縮です」

 立ち上がろうとした陳賢路に星羅はそうだと小さな包みをとりだす。

「すみません、陳老師。こちらを見ていただけますか?」
「ん? どれどれ」

< 229 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop