華夏の煌き
 王太子妃の桃華は美しく、琵琶の名手でもあった。しかしいつも仮面のような表情で、生まれた国のことを聞いてもあいまいな答えしか話さず、進んで寄り添ってこようとはしなかった。美しい人形のようだ。
 最初は、緊張のためにそのような態度だと思い、隆明から寄り添ったが、まるで打ち解ける様子はない。子供ができても彼女の様子に変化はない。体調の変化に気分を悪くしているのか、寝台に伏してばかりだった。

「王族の結婚とはこのようなものなのだろうか」

 隆明の生みの母である先の王后はなくなっているため、父王と母の睦まじい姿を見たことはなかった。もちろん、父王と今の王后とのプライベートな関りも見たことがない。

「隆明兄さま……」

 晶鈴にも彼が一日中、形式の中にいて、伴侶を得ても、結局王族の婚姻の形式が増えただけなのだということが分かった。民族と大陸の統一がなされ、戦争や貧困が起きない今、命を脅かされることが減っている。やっと安心を得た時代だ。それでも自由のない籠の鳥の隆明は我慢を強いられている。王族に生まれた天命であると理解していても、まだ若い彼には辛いことだった。

「また、来年には2人嫁がれますからそれまでの辛抱ですよ」
「側室か……」
「ええ、きっと兄さまと気の合う人がいますわ」
「そなたが入内できれば良いのに……」
「兄さま……」

 辛そうな隆明をみると、晶鈴もそばにいてあげたいと願うが彼女が側室に選ばれることはありえないだろう。

「そろそろ空が明るくなってきました」

 気が付くと夜が明け周囲を明るく照らしている。

「また来る」
「……」

 だめだとも待っているとも言えず、晶鈴は隆明の後姿をしばらく眺め立ち尽くした。

 隆明が太子になる前よりも、高い頻度で2人は会うようになる。さすがに下女の春衣にも早朝に彼が会いに来ていることばれてしまった。しかし彼女は晶鈴に誰が来ているのか尋ねることもせず、誰かに吹聴することもない。ただ心配そうに見ているだけだった。
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