華夏の煌き
12
111 最後
 後ろから「行ってしまったな」と郭蒼樹に声を掛けられた。西国の王の隊列を見送っていた人々はもうすでに戻っている。いつまでも星羅は見送っていたのを、蒼樹は見守っていたのだ。

「兄はきっといい王になるわ」
「ああ、そうだろう」

 しんみりする気持ちをごまかすように「王妃になって一緒に西国へこないかって誘われてたのよね」と星羅は明るく言う。

「王妃に?」

 蒼樹は鋭い声で尋ねる。

「母に会った時に、今度求婚されたら受けるようにって言われたから、少し意識してしまったわ」
「受けなかったのか」
「うん、だって母に言われる前だったから、求婚を受けなさいって話は」
「じゃあ、誰かに求婚されたら受けるのか?」
「そうねえ……」
「袁殿とはどうなっている?」
「袁殿? さあ、よく食事に誘ってくれるわね。さ、帰りましょう」

 星羅の後を蒼樹は難しい表情で付いて行った。


 朝議では今後の国の方針を話し合う。気候の寒冷化が緩やかになったとはいえ、油断はできない。国策として更に食料の自給率を上げさせることにし、農民が増えるほど、治める税率を下げていくことにした。
 星羅は新しい農産物を生み出すことを推奨したいと提言する。寒暖に耐えうる作物、もしくは寒さに強いもの、暑さに強いものを作り出し、更に保存が良いものを開発することを国家で行ってはどうかと発案した。
 至極真っ当な意見として受け入れられ、これからはより食に関して国家を上げての動きを見せていくだろう。

 星羅は自分の提言を受け入れられ、久しぶりに明るい気分で帰宅した。厩舎に馬の優々を連れて入る。

「明々、ただいま」

 優々を柵の中に入れ、眠っているだろう明々に話しかける。いつも帰ると顔を上げる明々がうつむいたままだった。

「明々? よく眠っているの?」

 そばに近寄ってそっと撫でるとやっと明々は顔を上げた。

「ひ、ん……」

 一言啼いて笑ったような悲しそうな表情を見せた明々はまた目を閉じた。そっと星羅は優しく撫で続ける。

「明々……?」

 鼻面を撫でた時、明々の呼吸が感じられなかった。明々が静かに絶命したのだ。

「明々っ!」

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