華夏の煌き
 もう明々は目を開けることはなかった。ちょうど胡晶鈴が明々に与えた岩塩が無くなったところだった。明々は晶鈴に会うまで頑張って生きていたのだろうか。それとも星羅が一人前になるまで生き延びていたのだろうか。まだぬくもりを感じる明々の身体にしがみついて星羅は泣いた。
 しばらく泣き続け、明々の体温が感じられなくなるころ、かさっと物音がしたので見上げると、月明かりの逆光を受けた大きな影が「どうした?」と声を掛けてきた。

「蒼樹……。明々が……」

 郭蒼樹は星羅のそばにしゃがみ込み横たわる明々を撫でた。

「埋葬してやらねばな」
「そうね」

 荷台を運んできて二人で明々の身体を乗せる。もう塩をなめていただけの明々は痩せていて軽かった。馬の優々がブルルと鼻息を出し、蹄で地面をごつごつ掘っている。自分が荷台を引くと言っているかのようだ。

「優々、運んでくれるの?」

 星羅が尋ねると優々はもちろんと言うようにブヒンッと啼いた。

「だけどどこに埋めてあげようか。この家に庭はほとんどないし」
「良いところがある。少し歩くがいいか」
「ええ、どこかしら」
「俺の住まいの近くだ。裏に小高い丘がある。見晴らしも良いだろう」
「引っ越してたの?」
「最近屋敷を構えたのだ」

 月明かりのおかげで明々を埋葬することは難しくなかった。星羅は一生懸命、踏み鋤を使って穴を掘る。深く深く掘り、縄を使ってそっと明々を穴の底に横たわらせる。星羅がそっと土をかぶせていると、優々も手伝うように前足で土を蹴り明々にかける。蒼樹が板切れに達筆で『故 明々』と書いて持ってきてくれた。

「ありがとう。すっかり世話になったわね」
「いや、いい。うちで湯を使え。今、沸かさせてるから」
「申し訳ないわ。蒼樹こそそうして。わたしは帰るから」

 蒼樹も埋葬を手伝ったので、土で汚れている。

「遠慮するな」
「う、ん」

 寂しくなっていた星羅は、強引な蒼樹にありがたい気持ちになり屋敷について行った。明々の墓を振り返る。月明かりに優しく包まれているかのようだ。

「明日、花を植えに来るね」

 ふっと風が吹き、星羅の頬をくすぐる。まるで明々が舐めたように感じた。

112 求婚
 滑らかな陶器製の風呂は疲れた星羅の身体も心も癒す。熱めの湯が心地よい。

「もっとお湯を足しましょうか?」

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