華夏の煌き
 皆が眠りこけ、夜が明けてしまうまでのわずかな時間を、2人は大事に過ごしていた。その貴重な時間は数か月に及んだが、王太子妃の出産が迫り、具合もよくないということで隆明は住まいの自宮から出してもらえなくなった。深夜になると眠りこけていた兵士は、交代制となり抜け出せなくなった。またしばらくの辛抱かと、隆明は耐えることにした。

 訪れなくなった隆明の事情は重々承知している晶鈴は、もうこのまま会えなくてもいいと思っていた。数か月であったが、晶鈴には人生で初めての心が躍りまた安らぐ不思議な時間を経験した。まるで夢のようだった。
 ぼんやり黄昏ていると「晶鈴どの! 晶鈴どの!」と野太い声が聞こえた。

「あら。張秘書監どの」

 息を切らして赤ら顔の張秘書監が小走りにやってきた。彼は晶鈴の占術の顧客ともいえる存在で懇意にしている。俗っぽい人間だが、悪人ではなく小心な男だ。

「晶鈴どの、実は……」

 先日占った娘婿の仕事の具合がどうやら外れたらしい。

「おかしいわね」
「もう一度観てくださらんか」
「ええ……」

 張秘書監を招き入れ、占い、結果を伝えると、彼は変な顔をする。

「うーん。そんなことになるとはありないのだが……」
「そうなのね。でもそう出てるのよね」

 さんざん唸って張秘書監は出ていった。占いを外してしまったので、今回謝礼を受けとることはしなかった。

「どうしてかしら……」

 晶鈴にもわからなかった。今まで占いが外れたことがなかったからだ。太極府からそろそろ前回占った王族の近未来の結果が伝えられるはずだ。今まで、占ったことの結果を気にしたことがなかったが、今回初めて不安を覚えた。

 太極府長の陳賢路の厳しい表情を晶鈴は初めて見る。

「そこに座りなさい」

 黙って晶鈴は座り次の言葉を待った。

「一体どうしたんだ。すべて外れている。面白いぐらいに逆の結果だ」
「――」
「ふざけてるわけではないだろう」
「私にも、なぜだか……」
「このままだと……」
「わかってます……」

 占術師として機能しない晶鈴はこの太極府にいることはできないだろう。

「もう一度だけ機会を与えるが……」
「はい……」

 チャンスを与えられたが、晶鈴にはもう無理だということがわかっていた。これで本当に会えなくなると、隆明のことを想った。
 
13 脈

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