華夏の煌き
 2人で近所の千花酒家に酒を飲みに出る。酒だけはあるので何とか営業している食堂だった。店の亭主が「今夜は少しつまみを出せますよ」と笑顔を見せた。

「そうか、ではそれと酒を頼む」

 やっと作物が多く収穫され始めたのだ。青菜の油いためを大事につまみながら星羅と蒼樹は酒を傾けた。

「少しずつ回復してきてるわね」
「ああ、なんとか国が傾かずに済んだな」

 2人で祝杯を挙げるように乾杯と言って杯を空ける。店では常連の客が数名、静かに酒を飲んでいる。いつかまた賑やかに、飲み食いして明るく騒げる日が来るだろうか。

「もう少しゆっくりしたいが」
「そうね」
「さて、明日も早い。帰ろう」

 結婚してから、蒼樹は歩くのがゆっくりになった。夜道を二人で並んでゆっくり歩き、ロバの明々の墓に立ち寄ってから屋敷に入った。
 寝台に上がると、星羅は倒れこむように寝付く。多忙な二人は床を同じくしながらも、まだ夫婦の営みを送ることが出来ないでいた。蒼樹はそれでも時期が来ればゆっくりと愛し合えると思い、急ぐことはしなかった。

114 新王
 西国に戻るや否や、京樹は西国の王ラカディラージャとして即位する。王宮のバルコニーからラカディラージャは国民に優雅に手を振る。西国の花と呼ばれたラージハニを知る国民は、その麗しさを受け継ぎ、バダサンプとは違い高潔な容貌に大歓声を上げる。
 そしてラカディラージャの隣には、清楚で美しい王妃となるスターラが優しく笑んでいる。似合いの若い王と王妃は圧倒的な支持を受けてこれから西国を立て直していくだろう。


――ラカディラージャは華夏国の国境を越え、とうとう西国にやってきた。隣り合わせの国なのに、随分と森林が少なくなり空気がカラッと乾いている。西国の地に降り立った時、向こうから豪華な馬車がやってくるのが見えた。

「あれは?」

 ラカディラージャが尋ねると、老いた宰相が「孫娘が出迎えに参りましたのです」と恭しく伝える。
「孫娘か」
「ええ、そして次期、王妃候補です」
「王妃候補?」

 西国に王として帰国すると、もちろん国家のための結婚が待っているのは当然だった。ラカディラージャは、最後まで自分を目で追っていた星羅を想う。

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