華夏の煌き
 ラカディラージャの乗っている馬車よりは落ちるが、輝く曲線的な馬車が止まり、若い娘がおりてきた。ココナッツ色の明るく滑らかな肌を持ち、黒目がちの丸い瞳を持つ愛らしい女性だ。豊富な髪は腰まで波打つ。

「おかえりなさいませ。ラージャ(王)」
「孫娘のスターラです。どうぞ、ここからは一緒の馬車にお乗りください」

 覚悟を決めて西国に戻ったとはいえ、あからさまな政略結婚には苦笑してしまう。それでも黙ってラカディラージャは頷いて、スターラと一緒に馬車に乗り込んだ。

 馬車にしばらく揺られ、彼女の甘い香りになれてきた頃ラカディラージャはスターラに話しかける。

「あなたはいいのですか?」
「やっとお声を掛けてくださいましたね」

 スターラはにっこりと明るい表情を見せる。

「すみません」
「まあ、王様が謝ってはいけませんわ」

 親しみがすぐに伝わるのは西国人の特徴だろうか。スターラは母の京湖ことラージハニのように屈託なく親近感を感じさせる。

「王様こそ、お嫌でしょう。いきなり会ったものが王妃候補と言われて」
「いえ、覚悟は決めてきていたので」
「そうそれならば」

 愛想のよいスターラの、わずかな表情の陰りをラカディラージャは見逃さなかった。

「あなたは本当に良いのですか? お心に決めた方がいるならば、このような婚姻は……」
「お優しいのですね。確かに心に決めた人がいました。でも……」

 バダサンプの暴政により、国内の王位継承者がことごとく抹殺された。その中の一人にスターラの想い人もいたのだ。

「それは辛かったでしょうね」

 明るさの中に、心の傷を隠し持っているスターラに同情心が湧く。

「よくお気づきになりますね。隠し事はできませんね」
「あ、いや」
「王様は?」

 スターラの心の内を知ると、ラカディラージャも隠し事をしないと決める。

「私にも想う娘がいましたが、ほかの者と結婚しました」
「王様も……」
「今は、もう彼女の幸せを願うだけです」
「それはお辛いでしょうね」
「ありがとう」

 お互いの気がかりを知るとより打ち解けてきた。

「あなたの名前はどのような意味があるのですか? まだ西国の言葉は少ししか知らなくて」
「星ですわ。王様」
「星……。いい名前だね」

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