華夏の煌き
 ラージハニは、息子の京樹が王になることを望むわけではないが、適任者だとも思えた。星羅はもう家庭を持っているので華夏国から出ることはないだろう。ラージハニも夫も西国に帰国していたならば、京樹も華夏国より西国にいるほうが自然だ。

「ラージハニ様。戦士階級のままで、さらに王の母上でおられましたなら一生ご苦労はないかと存じますが」

 老いた宰相が心配する。

「いいえ。王宮で優雅に暮らしたいわけではないの」
「そうですか……」
「新しい時代の人に任せましょう。ごめんなさい、わがままね」

 若いころの西国の花と呼ばれていたころのラージハニを知っている宰相は、彼女をまぶしく見つめる。

「今でも変わりませんな。あなた様の笑顔は満開の花に匹敵する美しさです」

 時が流れ、息子の京樹ことラカディラージャに無事、再会する。

「帰ってきてくれて嬉しいわ」
「かあさまがお元気で本当に良かった」
「とうさまにはお会いしましたか?」
「いいえ、まだ……」

 ラージハニはこれから市民階級となり、彰浩と一緒に暮らすことを望んでいるとラカディラージャに告げる。彼はもちろん反対しなかった。

「本当は、あなたと星羅が一緒になってくれたらよかったと思うけど」
「星羅は華夏国の軍師ですし、立派にやっていますよ」

 ラカディラージャは、ラージハニが帰国した後、星羅の夫、陸明樹が亡くなったことは伏せておいた。

「私ももうこの国を背負う覚悟ができています。一緒に支えてくれる者も多いでしょう」
「無理はしないで」
「かあさま。かあさまは十分に責任も役割も果たしました。どうぞ幸せになってください」
「ありがとう」

 大粒の涙はラージハニの浅黒い肌を転がる真珠のようだった。

 王宮を出たラージハニは、逃亡者ではなく自由な市民として夫の元へと向かう。随分年をとったが、心は明るく足取りも軽かった。辺境の山の奥深くの陶房まで共も連れず、馬車にも乗らず何日もかけて歩く。遠目から白い煙がのろしのように天に伸びているのが見えた。窯に火が入っているのだと、ラージハニは一目散にかけていった。

116 知己

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