華夏の煌き
 隆明に会えぬまま、晶鈴は太極府を出ていくことになった。能力や技術を失い、中央から離れることになるものは少なくなかった。太極府では、観察し、知識を深め理論的な占術の技術を高め予知する陳賢路のようなタイプと、晶鈴のようにインスピレーションを得て予知する直感的なタイプがいる。陳賢路のような手堅い予知を、晶鈴は時に凌駕するが外れ始めると瞬く間に崩壊する。
 彼女のようなフィーリング型の占い師はこのように突然観えなくなることがあり、太極府を離れていった。つまり珍しいことではないので、騒ぎにもならず宮中の噂になることもなかった。
 薬師の陸慶明は、晶鈴本人よりもショックを受けている。さっきからじっと握りこぶしを膝に置いたまま黙って、晶鈴の前に座っている。

「お別れね。明日、出立するわ」
「……」
「そんなに怖い顔しないでよ」
「行く当てはあるのか」
「一応、親戚もいるし故郷に帰ってみようかなって」
「帰ってどうするんだ」
「そうねえ。羊の世話をしてもいいし。市場で占いをして生計を立ててもいいし」

 晶鈴の占いはこの太極府では通用しないが、一般人には十分役に立つレベルではあるだろう。

「お金もしばらく困らないから旅してもいいわね。今までの貯えもあるし、退職金も結構もらったし」

 むっつり押し黙る慶明に、晶鈴は明るく話す。実際にもらった給金や、謝礼などを含めると、晶鈴は数年は何もしなくても生活ができる。遊ぶことも着飾ることにもあまり興味がなかったので、自然と貯えが増えていた。

「こないか……」
「え?」
「俺のところに来ないか?」
「慶明のところに? 何しに?」
「それは……」
「まさか側室になれとか言わないでしょうね?」

 慶明は本当は晶鈴を正室にしたかったとは言わなかった。

「同情してくれるのは嬉しいけど……。もうあなたのお子も生まれるし、私がノコノコ行ったら奥方も困惑するわよ」

 晶鈴の言葉を聞きながら、慶明はやはり彼女にとって友人以上の存在にならないのだと実感する。

「何かできることはあるか?」
「ううん。大丈夫よ」
「せめてこれでも」

 月に一度ひどい頭痛に見舞われる彼女に薬を多めに渡す。

「ありがとう。でもそういえばここの所頭痛がないのよね」
「ん? そうなのか? どれちょっと手を出せ」

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