華夏の煌き
「嬉しいよ。それにしてもあの頃と全く変わらないのだな。私はすっかり老いてしまったよ」

 都から出るころと、寸分たがわぬ若々しさで胡晶鈴は愛くるしい目を向ける。

「ふふっ。慶明がそう思っているだけよ。ほら、庭を散歩しましょうよ」
「え、それは、さすがに無理だ」
「ううん、平気平気」

 晶鈴が、慶明の手をとり引っ張り上げる。

「あっ」

 もう起き上がることも立ち上がることも無理だと思っていた慶明は、ふわっと身体の軽さを感じ寝台から起き上がる。

「外へ行きましょう」

 手を繋いで、庭に出る。空は満天の星空で美しく輝いている。庭を散歩する慶明は、足が窮屈だということを感じた。

「俺、履物苦手なんだよなあ」
「脱いじゃいなさいよ」
「そうだな」

 いつの間にか、青年のころに戻った若々しい慶明は裸足になって庭を走り回った。足の裏に感じる草や砂利、土が心地よい。

「やあ、気持ちよかった。晶鈴、ありがとう」
「ううん。こちらこそ。星羅のことありがとう。ごめんなさいね、面倒かけっぱなしで」
「いいんだ。色々楽しかったし」
「もうこれ以上望むことはないの?」
「そうだなあ。隆明さまにも聞かれたけど、特にないかなあ。最後に晶鈴に会えたしさ」
「そう、じゃあまたわたしは旅に出るわ」
「気をつけてな。さよなら」

 二人は遊んだ後、自分の家に帰るように別れた。


 早朝、隙間風の冷たさに目が覚めた絹枝は、慶明が息絶えていることに気付く。

「あなた!」

 もうどんなに呼んでも反応はなかった。慶明は穏やかにほほ笑んでいて、いい夢を見ながら眠っているようだった。

「穏やかに、逝かれたのね……」

 安らいだ表情のおかげで、心痛することは少なかった。それよりも慶明がいつの間にか裸足になっていて、土で汚れていることが不思議だった。
  
118 西国への旅
 現在、軍師省のトップである大軍師には蒼樹の父、郭嘉益が就いており、弟の郭文立は助手となっている。今年度は志望者もおおく、軍師省の試験に合格した者が5名もいた。そのうち2名は郭家の者だ。

「さてどれだけ残るものかな」

 相変わらず教官職である孫公弘は新しく入った、軍師見習いたちを値踏みする。孫公弘は人材教育に力を注いでいるため、役職としては上がることがない。教官を超えて、星羅と蒼樹が軍師の地位に就いている。

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