華夏の煌き
「まったくお前たちの年も豊作だったなあ。徐忠正もやめなきゃ俺の後釜の教官にしたんだが」
「確かに、忠正は教官向きだったかもしれない」

 蒼樹は相槌を打つ。

「俺や、忠正みたいなやつがいないと軍師省も偏っちまうからなあ」

 軍師たちは頭脳明晰で策を講じるばかりで、人間性は偏っており独特すぎるため、孫公弘のような人物がいないとまとまりも悪い。彼のような潤滑剤はここでは特に重宝された。

「俺も、星羅も偏ってないですよ」
「自分でまともっていう奴ほど……。まあ、いいや。今度二人で西国に向かってほしい」
「西国に?」
「ああ、華夏国も落ち着いたし、少し産物にも余裕ができた。以前の借りを返すのと、友好を結ぶためにな。西国の王は星羅の兄でもあるし、悪くない話だろう」
「それは喜ぶでしょう」
「そんなに長居はできぬが、行って帰ってくるだけでもお前たちにはいいだろう」
「二人でそんなに長く不在にして大丈夫だろうか」
「心配するな。太極府も今しばらくは大丈夫だと言ってるし、人材も増えたからな」
「それはありがたい」

 ずっと忙しくしてきた夫婦に対して、西国への旅はいわゆる国からの褒美だ。善は急げということで素早く支度をし、西国への贈り物を用意する。華夏国の最新の陶磁器製品と、刺繍のされた絹織物、古酒、細かい細工の玉製品などを取り揃える。

 古代、西国へ道のりは険しく何年もかけてたどり着いていたが、今は道が切り拓かれ、整備され交通の便も良くなったおかげで早馬であればひと月でたどり着く。多くの荷物を携え、ゆっくり行っても三ヵ月ほどで帰ってこられるだろう。
 国内の治安もよく、西国につけば、そこからは西国の兵士たちが出迎えてくれることになっているので、星羅と蒼樹は数名の兵士とともに小さな隊を組んで出発する。

 通りがかりの各県を訪れ、視察もするので仕事と言えば仕事だが、星羅と蒼樹にとって旅行のようだった。華夏国は東西南北にわたり広い国土を持っている。それゆえ同じ民族であっても微妙に風俗が違う。西国に近づくにつれ、言葉も変化する。

 国難の際に、星羅も蒼樹も国内のあちこちを巡ったが、風景や食事など楽しむ余裕はなかった。暴動を抑え、食料を配給し、避難民を整えるばかりだった。

「西国に近づくと料理がだんだん辛くなってきたわね」
< 262 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop