華夏の煌き
「こちらの味に馴染むと都の淡白な味付けが物足りなくなるな」
「郭家は特に薄味ね」
「刺激の強いものは、冷静さを失わせるという家訓だが、今回の冷害ではさすがに鷹の爪を良く食した気がする」
「本場の咖哩が楽しみだわ」

 移り変わる景色を楽しみ、その土地の食べ物を味わった。仕事上での蒼樹の理性的で合理的な考え方や、決断の速さなどを見てきて、彼のことを良く知っていると思っていたが、衣食住に関することでは新たな発見が多かった。

 西国人の朱京湖の料理を食べてきた星羅ですら、苦手だと感じる香草を蒼樹は平気で、むしろ旨いと言って食べる。南方の寝具は薄手で軽いが、蒼樹は寒がりのようで星羅を抱きかかえるように眠る。星羅の体温が高いらしく、心地よいらしい。着物の生地に目ざとく、変わった織物や染め物を見ると手に取ってじっくり眺める。かといって衣装が欲しい訳ではないらしい。長い旅は二人を仕事から離し、お互いを良く知る機会になった。
 
 華夏国の国境を超えると西国の兵士たちが出迎えてくれていた。星羅は西国の地に降り立ち、砂漠地帯を眺める。前回、西国の地を踏んだ時は、夫の陸明樹を取り返そうとした時で、今とは全く逆の感覚だった。緊張し警戒し、鋭い刃になったような心持だった。

 今回は西国の王になった兄に会う。早馬で手紙を出していたところ、国の祝宴では無理だが、うちうちの小さな宴を設けて養父母の彰浩と京湖を呼んでおいてくれるということだった。

「もうじきだな」
「ええ、もうじき」

 砂塵が舞い上がる中、兄が住まう王宮のほうを星羅は目をこらして見つめた。 
 

119 国の違い
 華夏国の国賓として盛大なもてなしを受けた後、星羅と蒼樹は宮殿から少し離れた屋敷へと宿泊のために案内される。屋敷は王宮と違い規模は小さいが、石造り建築の粋を集めたかのような華麗で美しいものだ。最高品質の黒い大理石は、星羅が映るほどよく磨かれている。ひんやりとした空気は、西国の暑い気候を忘れてしまいそうだ。

「明日は本当に楽しみだわ」
「よかったな」

 この屋敷に、朱家が揃うのだ。市民の身分になった朱京湖は、兄の京樹が住まう王宮には出入りできない。例え、京樹の母ということで目をつぶられても、父の朱彰浩は絶対に王宮に入ることは許されない。
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