華夏の煌き
 身分至上主義の西国では、どんなに才があっても市民階級は政治に関与することはできないのだ。

「母は、華夏国と違ってこの国の身分制度がとても嫌だと言っていたわ」
「どこで生まれるかで一生が決まってしまうのは、厳しいものがあるな」
「兄は華夏国で育ったから、身分制度に反発があるでしょうね」
「京樹殿、いや、ラカディラージャ様は王なのだから、変革させられないのか」

 星羅も、蒼樹同様に思うが、実際無理のようだ。子どものころに、蒼樹と同じように、星羅も母の京湖に聞いたことがある。良い王様が、華夏国の高祖のように身分をなくせば良いのではないかと。当時の京湖と同じように、ため息交じりで星羅も答える。

「西国では、その階級に生まれることに因果応報があって変えてはいけない、階級をなくすことは自然の法則を無視することになるのですって」
「なるほど。そう言われてしまってはどうしようもないな」
「せめて、低い身分の者でも幸せに暮らせるといいのだけれど」
「そうだな……」

 話に聞いていた身分制度の熾烈さは、星羅と蒼樹が目の当たりにすることはできなかった。西国の恥部ともいえるこの身分制度は、王族や戦士階級にとってはなくてはならないものである反面、他国の者に見せられるものではなかった。
不可触民の住まいは国の一番劣悪な場所で、仕事も人が最も嫌がるだろう汚れ仕事しかなかった。どんなに才能があり、高潔な精神を持とうが一生不可触民の身分から変えられることはなく、自己を実現する機会などない。汚物にまみれ、腐ったものを食べ、自分より上の身分の者に唾される日々を送るのだ。

 京湖に暗殺された、先代の王バダサンプは、不可触民であったことが発覚したのち、その名前をすべての記録から抹消された。数代先の時代には、バダサンプという王がいたことなど全く知られないだろう。

 星羅も蒼樹も、もしもバダサンプが私利私欲に走らず、志や徳が高ければ、泥の中から生まれた英雄として西国を換えることが出来たかもしれないと残念に思った。

「今の華夏国があるのは高祖のおかげね」
「ああ、宦官がいないだけでも随分違う」
「でも晶鈴の母上が言ってた。この王朝もいつかなくなるって」
「例え完成度が高くとも、いつかは古くなり新しいものがやってくるのかもしれぬな」
「蒼樹もなんだか達観してるのね」
「さあ、どうかな」

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