華夏の煌き
「話したいことがいっぱいあるわ」
「ええ、たくさん聞きたいわ」

 仲睦まじい星羅と京湖の母娘の姿を優しく見守りながら、蒼樹と彰浩は腰掛ける。

「実は――」

 蒼樹が話を切り出すと、彰浩はうんと頷く。彰浩も京湖も、星羅の前夫、陸明樹が亡くなったことを知らなかった。蒼樹の話に、彰浩は悲しげな瞳を見せたが、ちらりと星羅の様子を見てまた笑んだ。

「君がいてくれてよかった。おかげで星羅は辛いことを乗り越えられたようだ」
「いえ、彼女自身が乗り越えたのでしょう」

 直接、励ますことも意見することもしなかったので、蒼樹は謙遜でもなく率直な感想を述べる。彰浩は首を横に振る。

「星羅自身が乗り越えられたと思うのなら、それは君がそばで長い間見守ってくれていたからだよ」
「どうでしょう」
「ありがとう。これからも頼む」

 話し込む前に、今度は京樹もやってきた。控えめな色合いの衣装でやってきた京樹だが頭角を現した彼は、大輪の花のようだ。西国の花と呼ばれた母の京湖の美貌と麗しさを受け継いでいたが、華夏国では開花しなかったようで木陰のような存在だった。今では、堂々として力強い華やかさを持つ。華夏国では星を読む存在だったが、西国の民にとっては彼が日の光そのものなのだ。

「星妹!」
「京樹にいさま」
「今日はゆっくり話せるね」
「ええ」

 華夏国の外交官として星羅と蒼樹はもてなされていたが、お互い遠くの席に離れていて公的な挨拶をするくらいだった。近しい距離で席に着き、まずはお互いの近況を報告する。京樹の夫人の話を聞き、仲の良さに皆安堵する。胡晶鈴に会ったことも話す。
 話していると徐々にリラックスする。辛いこともいっぱいあったが、傷はもう癒えていて、華夏国の家族で暮らしていたころに戻ったような気がした。
 マイペースで他人には関心のなさそうな蒼樹も、ちゃんと朱家に婿として交じり如才なく溶け込んでいる。
 ずっとこんな風に長く過ごしてきて、これからも永遠に一緒に過ごせる気がするようだ。まるで美しい夢を見ているように平和で温かな時間だった。しかしその時間は止まることはない。また別れる時が来るのだ。

「会えてうれしかったわ」
「きっとまたいつか会える時が来るわ」

 離れがたい星羅と京湖はくっ付いてしまうくらい抱き合う。それでも悲しい別れではないので傷つくことはなかった。

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