華夏の煌き
 現在の後宮は、正室に側室4人と人数が決まっていて、王と過ごす期間もほぼ決まっている。正室に子供ができれば、次々に側室と過ごし、5人まで子ができればまた正室と過ごす。
 太古の後宮のように数多くの女人たちが、寵愛を競うことはなく、王が寵愛をローテーションで与えていくことになるのだ。順番が確実にやってくるので、妃たちに不満は出ず、競い合うことも、蹴落とすこともなくなった。
 王のほうも、気に入った妃を贔屓することはできない。お気に入りの妃ができても、その者との蜜月は期間が決まっている。このシステムのおかげで王朝は長らく安定している。

 隆明も即位し王となり5人の妃がいれば、気の合うものも出てくるだろう。 腹の子の父親が明らかになっても、王族から認知してもらえることはないだろう。過去には嫉妬に狂った妃から毒殺される王子や王女がいたが、今は王朝そのものから、計算外の子として抹殺されるかもされない。
 王朝の安定は、計画と計算と予知の賜物でもある。太子の隆明には自由な恋愛、選ばれていない女人と子を成すことはあってはならないことだった。

 髪飾り一つつけず、丈夫で質素な着物と履物をそろえた。荷物は風呂敷包みに一つだけだ。とりあえず路銀と流雲石があればなんとかなるだろう。物思いにふけっていると少しずつ日が差してきた。

「朝ね。門が空くわ」

 日の光を背に、関所に向かった。

 まだまだ静かなくらい都の中を、目に焼き付けながら歩く。店の扉は硬く閉まっていて、人々はやっと床から身体を起こすだろう。関所に着くとちょうど兵士たちが交代するところだった。若い青年兵士たちは目をこすりながら、槍をもって門の前に立っている。

「もうじき開くかしら?」

 晶鈴が通行手形を見せながら尋ねる。

「もうじきです」

 しっかり通行手形を確認することなく、兵士は答える。平和な今は関所は形ばかりだった。危険な人物を排除するというより、安全な旅のために関所は機能している。民族が統一されてから国は大きく豊かになったので、外敵から大きな戦争を仕掛けられることはない。もっともっと遠くの国々も、同時期に戦国時代を抜けているのだろう。

 開き始めた大きな門に近づくと「晶鈴」と声をかけるものがあった。

「慶明……」
「見送るといっただろう」
「ああ、そうだったわね」

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