華夏の煌き
「そうか。悪いな。じゃ、荷物もってくるから、ちょっと待ってて」

 素早い身のこなしで、慶明は小さな包みを持ってきた。

「これだけ?」
「うん。ここでなんでも揃うから、荷物はいらないって言われたから」
「まあ、そうね。こっちよ」

 晶鈴は指をさして歩きだす。背格好の似ている二人は故郷はどこか話し合った。晶鈴はこの都のずっと北西からやってきたことを話す。

「占い師見習いも試験があるのか?」
「ううん。太極府で毎年、星の位置と易で見習いを選出するの。だけど、毎年出てくるわけじゃないみたい」
「そんな選び方なのか」
「わたしが来てから、まだ新しい人がいないからちょっと寂しいわね」

 占い師見習いは、年によってばらつきが多い。、晶鈴が選ばれる前年に数名見つかったが、ここ最近めぼしい人材がいない。

「慶明さんのほかの合格者はいるの?」
「慶明でいいよ。同じ見習いだし。確か5人いるって聞いた」
「それは賑やかでいいわね」
「でも来年になるとどうかなあ」
「ああ、医局は厳しいものねえ」

 占い師は一度選ばれ、入るとほぼずっと太極府にいることができるが、医局は毎年、試験があり、たとえ入局できてもふるい落とされることがあるのだ。
 話しながら歩く慶明は時々視線を下に落とす。

「どうかしたの? 足が痛むの?」

 裸足の慶明に、遠慮がちに尋ねる。

「いや。逆逆。これだけ滑らかな道じゃあ、ますます履物がいらないと思ってさ」

 朝廷を中心にした王の宮殿には、医局と太極府、王、直属の軍隊の寄宿舎、後宮などがある。万が一の時、王のもとへ素早く馳せ参じるために、常に道は舗装されてあった。

「でもそのうち履物を履かされるようになるわよ」
「それが一番窮屈なことだよなあ」

 慶明は南方の民族で、履物を履く習慣がないらしい。暖かい地方のようで衣も薄い。日に焼けた健康的な肌に、素朴で荒い生地が良く似合っている。貧しいから粗末な装いになっているわけではなかった。

「今はいいけど、ここは冷えるからきっと履くようになるわよ。あ、そこよ」

 宿舎が見えてきたので晶鈴は指をさした。ほかの建物と違い、門も装飾はなく大きな箱のようだ。

「晶鈴はどこに住んでる?」
「ああ、わたしは女人用の宿舎が反対側にあるの」
「そうか。随分遠くまで案内させてしまったな」
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