華夏の煌き
「いいのいいの。こういうこともわたしには必要なことみたいだから」
「ふーん。そういうものか」
「じゃあ、ここで。またね」
「ああ、体調が悪くなったら俺が薬作ってやるよ」
「あははっ。また勝手に薬草とったりしないようにね」
踵を返し、晶鈴は来た道を戻った。袖の中の小石をまた手の中に戻し、こねるように撫でまわす。カチャカチャなる石たちの音を聞き、ふと今日の占いの卦を思い出す。
「あら? 友というのは、王子じゃなくて今の慶明なのかしら」
王子と友達になることよりも、薬師見習いの慶明と友達になるほうが自然なことのような気がする。
「まあ、どちらでもいいわね。やっと年の近い知り合いができたんだもの」
今度こそ、太極府へ戻ろうと着物の裾をまくり、小走りで道を進んだ。
3 太極府
門の前に兵士が二人槍をもって立っている。晶鈴は着物の汚れを簡単に払い、首から下げていた札を兵士に見せる。
「どうぞ」
「ありがとう」
兵士たちとは顔見知りで、お互いのことを知っているが、規則にのっとり太極府への通行札を見せるのだ。敷居をまたぎ石畳を歩く。医局は薬草などの植物だらけの場所と違い、太極府は庭は主に石で構成されていた。細長い黒い石と白い石が、易の卦を表している。晶鈴はポンポンっと一つ飛ばしに黒い石だけを歩いていく。今はまだ日が高いので、みな屋内にいるが、夕暮れ時からは星読みがぞろぞろと外に出てくる。
晶鈴は青色の厚手の靴を脱ぎそろえる。太極府のものはみな青い靴を履くことになっている。慶明は医局の色である白の靴を履かされるだろう。そういえば王子の隆明の靴の色を見る余裕はなかったことを思い出した。おそらく王子、王女の身に着ける黒であろう。今頃になって隆明の瞳と髪が、漆黒であったことを思い出す。
「わたしや慶明みたいな庶民とはやはり違うものねえ」
少し栗色をした毛先を眺め、慶明の黒いがゆるくくねった髪を思った。
「もし、ほんとうに友達になれたら……」
漆黒の絹のような髪に触れてみたいと思うのだった。
「これ、晶鈴。帰宅が遅いぞ」
長い白いひげを蓄えた、長身のほっそりした陳賢路老師が声をかけてくる。
「すみません。陳老師。今日は出会う人が多かったものですから」
「ほうほう。どれこっちで話を聞かせてもらおうかの」
「ふーん。そういうものか」
「じゃあ、ここで。またね」
「ああ、体調が悪くなったら俺が薬作ってやるよ」
「あははっ。また勝手に薬草とったりしないようにね」
踵を返し、晶鈴は来た道を戻った。袖の中の小石をまた手の中に戻し、こねるように撫でまわす。カチャカチャなる石たちの音を聞き、ふと今日の占いの卦を思い出す。
「あら? 友というのは、王子じゃなくて今の慶明なのかしら」
王子と友達になることよりも、薬師見習いの慶明と友達になるほうが自然なことのような気がする。
「まあ、どちらでもいいわね。やっと年の近い知り合いができたんだもの」
今度こそ、太極府へ戻ろうと着物の裾をまくり、小走りで道を進んだ。
3 太極府
門の前に兵士が二人槍をもって立っている。晶鈴は着物の汚れを簡単に払い、首から下げていた札を兵士に見せる。
「どうぞ」
「ありがとう」
兵士たちとは顔見知りで、お互いのことを知っているが、規則にのっとり太極府への通行札を見せるのだ。敷居をまたぎ石畳を歩く。医局は薬草などの植物だらけの場所と違い、太極府は庭は主に石で構成されていた。細長い黒い石と白い石が、易の卦を表している。晶鈴はポンポンっと一つ飛ばしに黒い石だけを歩いていく。今はまだ日が高いので、みな屋内にいるが、夕暮れ時からは星読みがぞろぞろと外に出てくる。
晶鈴は青色の厚手の靴を脱ぎそろえる。太極府のものはみな青い靴を履くことになっている。慶明は医局の色である白の靴を履かされるだろう。そういえば王子の隆明の靴の色を見る余裕はなかったことを思い出した。おそらく王子、王女の身に着ける黒であろう。今頃になって隆明の瞳と髪が、漆黒であったことを思い出す。
「わたしや慶明みたいな庶民とはやはり違うものねえ」
少し栗色をした毛先を眺め、慶明の黒いがゆるくくねった髪を思った。
「もし、ほんとうに友達になれたら……」
漆黒の絹のような髪に触れてみたいと思うのだった。
「これ、晶鈴。帰宅が遅いぞ」
長い白いひげを蓄えた、長身のほっそりした陳賢路老師が声をかけてくる。
「すみません。陳老師。今日は出会う人が多かったものですから」
「ほうほう。どれこっちで話を聞かせてもらおうかの」