華夏の煌き
 ウェットな二人の男の気持ちに、まるで頓着のないカラッとした気性の晶鈴が恨めしい。それよりも気になるのは隆明の様子だ。

「お心を病まねば良いが……」

 母への薬作りがそろそろ完成しそうだ。その薬は王太子にも必要になるかもしれないと、分量を増やすべく急ぎ医局へと戻ることにした。
 
20 最後の町
 大きくなった腹をさすってロバの明々の引く荷台で横たわった晶鈴は、そろそろ本格的に落ち着き先を探そうと考えた。当面何もしなくても生活ができる資金はあるので、住まいをとりあえず求めることにした。

「随分と遠くまで来たわ」

 結局、最後の関所までやってきてしまった。ここを抜けてしまうと外国になってしまう。

「国の端までやってきたのねえ」

 狭く、俗世と隔たれてきた環境から、一気に広い世界へとやってきた爽快感があった。

「だけど、ここから先はもう無理ね」

 さすがに関所を越え、外国に行くには国からの許可が必要だった。行き来するのは国家間の主要人や外交官、許可された商人の身だった。まだまだ気軽に外国旅行はできない。もし無断で国外に出てしまえば、帰ることも叶わなくなる。晶鈴はそこまで冒険したい気持ちではない。

 毎度のことながら、身分証を見せると「ほうっ」と目を見張る兵士に笑みながら街に入った。国境の町は、人種も、飛び交う言葉も、衣装も、食べ物の何もかも雑多だった。混雑した状況に晶鈴は逆に安堵を覚える。

「みんなバラバラなのねえ」

 誰も自分を詮索しないし、する必要もない。訳アリの人物も多い町だろう。埃っぽい町をうろうろしてとりあえず宿を探すことにした。これだけ雑多で人の行き来があれば、宿屋に借りぐらしをしながら住まいを見つけることができるだろう。


 占い師の勘というべきか、これまでの経験というか、この町にいる占い師をすぐに探し当てることができた。今までは町に一人だった占い師がここでは3人もいる。皆、人種が違うようだ。
 晶鈴は初めて目の色が青く髪が金色の人を見た。占い師の一人にもそういう金髪碧眼の女性がいたので思わず席に座った。大柄でガタイの良い中年の女性は迫力がある。晶鈴は恐る恐る尋ねてみた。

「あの、言葉は通じるかしら」
「もちろん。ここは長いのよ」
「どうやって占っているの?」
「え? 占い方? そんなこと聞かれたのは初めてよ」

< 40 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop