華夏の煌き
4人は東西南北にそれぞれ分かれて商売をし、客層がかぶることもなく、奪い合うこともないので競争心はわかなかった。むしろ気の合う仲間として、時々食堂で一緒に集まる仲間になっていた。太極府と違う占い師たちに晶鈴は刺激されていた。

「みんな卜術なのね。命術の占い師がいないって面白いものね」

 太極府では晶鈴のように偶然性を必然として使う占い師のようなタイプよりも、星の動きや生まれた日時で占う方法のほうが圧倒的に多かった。

「あら、あたしは手相も観るわよ」

 赤毛の振り子占い師は大きな手のひらを見せる。晶鈴も自分の手のひらを思わず見ると、微妙に手のひらの線が違うことに気づいた。

「ほんと。この筋ってみんな違うのねえ」

 感心している晶鈴に金髪のカード使いが「手相も卜術とかわらないでしょ」と大げさな笑顔を見せる。灰色の髪を持つサイコロ振りが静かだがよく通る声で発言する。

「近未来を観るのに卜術のほうが的中率が高いから。宿命がある人間はそうざらにない。運命は心がけ次第で変わるから」
「そうそう。考え方ひとつで天国にも地獄にも変わるものよ」
「へえ」

 天国や地獄、神や仏、いろいろな話を聞けるこの占い師の集まりは晶鈴にとって刺激的だった。

「そうだ。そろそろ産休に入ることにするの。また復帰するときはよろしくね」

 晶鈴はそろそろ来月、産み月に入る。

「そうかい。元気な子を産みな」
「がんばって」
「仕事がなくなることはないからいつでも帰ってくるといい」

 流れ者の多い町では、だれも事情を聞かないし、詮索もしない。それでも付き合いやすく、親切で明るかった。情報通である彼女たちは一番赤ん坊を取り上げるのが上手な産婆も教えてくれた。

 ロバの明々を伴って夕方、関所が閉まってしまう前に町を出た。顔見知りになった兵士は「気を付けてな」と声をかけてくる。

「またね」

 宵の明星を眺めながら家路につく晶鈴は、生まれてくる子どもに『星』の字を使おうと考えていた。

 馬のいない馬小屋にロバの明々を入れ、水を汲みに井戸へ向かった。ちょうど朱彰浩が手を洗いにやってきていた。

「ただいま」
「おかえり。水は俺が運ぶ」
「ううん。いいわよ」
「いや、もう臨月だろ。無理しなくていい」
「ありがと。じゃあお願いするわ」

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