華夏の煌き
 ぶっきら棒だが親切な朱彰浩の厚意に甘えることにした。自分の小屋に行く前に、京湖の顔を見に行く。

「京湖さん、ただいま」
「おかえりなさい。今日はどうだった?」
「まあまあかしら。みんなには明日から休むって言ってきたの」
「そろそろ身動きが取れにくくなってきたわよねえ」
「ね」

 わずかに京湖の腹のほうが大きく、予定日は彼女のほうが早そうだ。

「ご主人に色々お世話になって申し訳ないわ」
「あら、こちらこそ。お互い様よ」

 世間話をすこしして晶鈴は帰った。寝台に腰掛け腹を撫でると、内側からぽこぽこと蹴られた。

「アタタ。なかなか強くけるのねえ。男の子かしら? 京湖さんは女の子かもしれないわ」

 楽しみのような不安のような怖いような複雑な気持ちが駆け巡る。いろんな思いをすることに晶鈴は不思議な心持だ。占い師たちの言葉を思い出す。

『運命は心がけ次第で変わる』『考え方ひとつで天国にも地獄にも変わる』

 自分の人生は自分で切り開いていくものなのかと肝に銘じて晶鈴は目を閉じた。

 しばらくのんびりとした日々を送る。京湖と一緒に赤ん坊の産着を縫い、寝かせる籠も編んだ。朱彰浩は朝から晩まで忙しく窯を作り、やっと完成したところだった。今はその窯で焼く器を制作している。
 京湖と二人で彰浩が稼働する円盤を蹴って回す、ロクロの作業を眺める。粘土の塊がぬるぬると伸び縮みし、収まり、鉢や壺になった。

「面白いわねえ」
「今度やってみたら?」
「ううん。見てるだけでいいわ」

 朴訥とした彼から、優しい陶器が生み出されるのを見ていると晶鈴は心から和む。作品が窯に一杯になったら三日三晩不眠不休で焚くそうだ。

「不眠不休なの?」
「ええ。火を絶やせないから」
「焚くのって難しいのかしら。難しくないならお手伝いするけど」
「難しくはないのだけれど、温度がすごいのよ」
「そんなに?」

 詳しく聞いていると、鉄さえも溶けるという相当の高温らしく晶鈴には想像のつかない温度だった。

「ちょっと怖いわね」
「せめて子供が落ち着くまではやめておいたほうがいいと思うわ」

 安穏とした日々はそろそろ終わりを迎える。とうとう二人が母になる日が近づいてきた。

23 新しい命
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