華夏の煌き
 もう間もなく京湖から新しい命が誕生する。真夜中に産気づいた彼女のために、朱彰浩はいそぎ町へと向かった。真夜中の訪問者に関所の兵士は尋問するが、晶鈴の通行証と、薬師の陸慶明の札が役に立ちすぐに通してくれた。更には馬車も融通され、素早く産婆を連れ戻ることができた。

「もう少しでごじゃいましゅよぉ」

 しわくちゃの年を取った産婆が、悲鳴とうめき声をあげる京湖をなだめるように声をかける。

「頑張って!」

 晶鈴は自分の手を血がにじむほど強く爪を立て握る京湖を励ます。夫の彰浩は外でうろうろと落ち着きなく待つだけだった。一刻で赤ん坊が大きな産声とともに誕生した。

「生まれたわ!」

 感動に震えながら、晶鈴は外の朱彰浩に声をかけた。彼は勢いよく転がり込むように中に入ってきた。

「あなた……。男の子よ」

 普段も優美な京湖はさらに、かがやくような笑顔を見せる。

「そうか。息子か」

 放心状態で彰浩は母子を見つめた。お湯で綺麗にされた赤ん坊にさっそく乳を含ませる。温かく和んだ空気が流れる。安堵もつかの間「こりゃいかん!」と産婆が声を荒げる。その声にハッとし晶鈴も破水していることに気づき、痛みを感じる。

「う、ううっ、うぅ」
「と、隣へ。あんたはまた外で湯を沸かして」
「わ、わかったっ」

 息つく間もなく朱彰浩は急ぎ外へ飛び出した。腰を押さえながら呻き、晶鈴は京湖の隣に横たわる。

「ごめ、ん。邪魔しちゃって――」
「気にしないで、今度は自分のことだけ考えて!」

 母となった京湖は力強い瞳で見つめ、晶鈴がしたように彼女も強く手を握った。脇に赤ん坊を抱えたまま。

「もう、頭が出とる! いきみなされ!」
「くうううっ――」
「ほれ! もうちょい!」
「あああっ!」
「――!」

 またまた激しく大きな産声が小屋を震わせる。外で湯を沸かしていた彰浩の耳にも届く。
「これはまた元気の良い女の子で」

 痛みから一気に解放され晶鈴も喜びに包まれる。声にならないまま赤ん坊を抱く。仲良く並んだ晶鈴と京湖はうるんだ瞳と喜びを交換し合う。

「あっという間でございましたなぁ。まるで双子のようでございましゅよ」

 安産ではあったが、二人取り上げるということは大変なことのようで、老婆は随分疲労したようだった。

「これを……」

 彰浩が礼金の入った小袋を渡す。

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