華夏の煌き
「こりゃあ、どうも」

 頭を下げて恭しく受け取ると、老婆の疲労が少し軽減されたようだった。

「ありがとう、おばあさん」
「なんの、なんの。まあしかしこうも同じ時間帯に生まれるとは……」

 ちらっと彰浩を見上げて「まあ、そういうこともあろうか」と納得したように頷く。

「町へ送ってくる」

 彰浩はもう一度赤ん坊の顔を覗き込み、満足した様子で老婆と外へ出ていった。

 京湖はくすっと笑って「産婆のおばあさん、きっと誤解してるわね」と晶鈴の赤ん坊を見つめた。

「何を?」
「きっと晶鈴のことも、夫人だと思ったのよ」
「え、あら、困るわね。気を悪くしないでね」
「ううん、全然。あなたと姉妹のようで嬉しいわ」
「ありがとう。私も京湖を姉のように思うわ」

 出産を機にますます友情が深まる二人だった。

「この子たちが仲良く育つといいわね」
「ええ、本当の兄と妹のように」

 心から明るく願う晶鈴に、一瞬表情に陰りを見せる京湖は「そうね、そうね」と自分自身に言い聞かせていた。夜明け間近の空には星が二つ輝いている。


24 新薬の開発
 薬師の陸慶明は、最近手に入れた異国の薬草の効果を自分で試してみていた。身体に害はないだろう。爽やかでスーッと抜ける清涼感を持つ香りがあたり一面に込められている。椀の中の薬湯の水面を眺め、ふうっと息を吐きだしてから一気に飲んだ。後味もすっきりとして悪くなかった。

「晶鈴……」

 薬問屋の男から、薬草とともに胡晶鈴の名前が出てくるとは思わなかった。手紙一つよこさず、心配で彼女の故郷に人をやって探させたが帰っていなかった。薬問屋の話では彼女は故郷に向かっているということだが、気まぐれを起こさないとも限らない。また彼女に出会うことがあれば、手紙を書くように伝えてほしいと頼み、さらにどこにいたか、教えてほしいと二重に頼む。しかしこの広い国土で、一度見失えば砂の中の砂金のように見つけることが難しいだろう。

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