華夏の煌き
 目的を達成していくことによってより、自由が減っている気がする。しかたなく慶明は履物を脱ぎ、足先に自由を感じさせることにした。
 

25 薬の効果

 慶明は出来上がった薬をもって母のもとへ行く。虚ろな母はぼんやりと空を見ながら枕を二つあやしている。使用人を下げ二人きりになり、そっと温かい薬湯を差し出す。

「かあさま。さあ」
「ん? なあに?」
「これ、美味しいですよ」
「んー。あまり飲みたくない」
「そんなこと言わずに」
「んん。じゃあちょっとだけ」

 飲んでもらわないと始まらないので、飲む気になった母に安堵する。飲みやすいように甘みをつけているので喜んで飲むはずだった。ごくんごくんと喉を鳴らして母親は飲み切った。ふうっとため息とついて彼女はまた枕を抱いて何やら子守唄を歌う。そのうちに変化が見られ始めた。虚ろな目が慶明を直視し始める。

「慶明? あら、どうしたのかしら。なんだか頭が軽くなったような」
「かあさま……」
「まあまあどうしたの。そんな顔をして」

 また正常な母に会えた嬉しさで慶明の表情は崩れる。母親はそっと両手で彼の頬を包み込んだ。

「そろそろ、あなたの兄と妹が亡くなって20年になるのね。かあさまもいつまでもこのままじゃいけないわね。孫の面倒も見なければ」

 彼女の中では、時間の経過や現状がどうなっているか理解しているようだった。慶明は自分のこともちゃんと知っていてくれているのだと安堵する。

「そうだよ。かあさま。孫の明樹はおばあさまに会いたいと言ってる」
「まあまあ。あなたに似ているのかしらね? 早く会いたいわ」
「うん。かあさまさえ良ければ都で一緒に暮らしましょう」
「そうねえ。でも、ここから離れたことがないし、何より二人のお墓を見てあげないとね」

 寂しそうな笑顔を見せるが、母とまともに会話ができるだけで慶明は満足だった。

「不自由があったらすぐに言って」
「ええ、ええ、そうするわ」
「かあさま……」

< 51 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop