華夏の煌き
「もちろんです。喜んでお供します」
「私はもう少し外の空気を吸うことにしよう」
「では私はこれで」

 立ち去る慶明からまた庭に目を移す。色取り取りの花々の美しさや香りに目を奪われるが、ふと晶鈴は花をめでることはしなかったことを思い出す。
 女人なら花が好きで部屋に飾るのかと思いきや、香りが邪魔だと言っていた。彼女が嫌いじゃないと言っていた花を目に浮かべる。紫色の桔梗だった。形も星のようで良いらしい。水仙はどうかと尋ねたら香りが強すぎるということだった。

「残念ながら今は咲く季節ではないな」

 秋風が吹くころ桔梗は咲き始める。さりげなく静かに咲く桔梗は晶鈴のようだった。

「秋に向けて桔梗をたくさん植えさせるかな」

 部屋を出ればすぐに桔梗を鑑賞できるように、庭師に整えさせることにした。それまでは桔梗の代わりに星でも眺めようとまだ明るい空を見上げた。
 

27 王太子妃と側室
 王太子妃に次の子が恵まれぬまま、二人の側室が曹隆明に仕えることとなった。一人は東方の役人の娘で申陽菜といい、もう一人は北西の商人の娘、周茉莉だった。
 地方性があるのだろうか、周茉莉は北西の村から来ていた晶鈴に似た栗色の髪と濃い茶色の瞳をしている。また美しいというよりもかわいらしいと思える顔立ちだった。そして隆明は、この北西から来た娘、周茉莉を好むようになる。
 妃のもとへ通う順序は、王であっても自由にできない。王太子である隆明も勿論同じで、気に入った妃ができても、彼女たちを平等に扱わねばならなかった。年齢は東から来た申陽菜のほうが一つ年上なので、もしも側室二人に男児が生まれたら、申陽菜の息子が世継ぎとなる。王太子妃の桃華は次の子供の兆候が見られず、太極府の占いによっても望みが薄いと出ていた。できれば確執が生まれないように、申陽菜に男児が生まれてほしいと望まれている。

 夜に通うのは規則的な制約があっても、昼間に共に過ごすぶんにはある程度自由があった。国家の行事や、祭りごとなどは王太子妃の桃華を連れ立つ必要があるが、庭を眺めたり、音楽を奏でたりするときには隆明は茉莉をよく伴っていた。
 茉莉は歌が得意だった。声の質もよく滑らかで小鳥のさえずりのようだ。池のほとりの東屋で、隆明は「さあ、茉妹よ。歌っておくれ」と袖から横笛をとりだした。

「隆明様。またわたくしを妹とお呼びになって」
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