華夏の煌き
「きっと、隆明様は、わたしを無感情なつまらない女だと思っているでしょうね……」

 いつか思い切りあなたを愛していると告げ、抱き合えたらなんと素晴らしいことかと、隆明が通ってこない夜は涙を流しながら眠りについていた。


 東から来た申陽菜は、細身であっさりとした風貌で髪も細く繊細な美貌だった。彼女は舞が得意で、一たび舞えばまるで風に乗っているような身の軽さを感じさせる。大臣たちからの受けもよく、隆明はこの娘を気に入ると思っていたので、周茉莉を好んでいることは不思議に映っていた。
 申陽菜はあっさりとした風情とは逆に、内面は誰よりも情熱的だった。しなやかな肢体を駆使し、隆明の寵愛を得ようとしている。彼女はなかなかの策略家で受け身な性格ではない。王族の診察を行っている、薬師の陸慶明に目をつける。

「なんだか。ちょっとめまいが……」
「あ、陽菜さま……」

 よろけるふりをして、陽菜は慶明にしなだれかかる。薬師とはいえ、気軽に触れてはいけないので慶明は慌てて手を取り、寝台に座らせる。彼女の繊細な美貌とふわっとした軽さに、慶明でもドキリとする。

「手を失礼して……」

 脈を診るが、貧血などの症状はなかった。心配ないと告げると、陽菜は「そう……」と伏し目がちに答える。考えている慶明に囁くように陽菜は頼みごとをする。

「体臭を甘い香りに変える薬を作っていただけないかしら?」
「体臭、ですか?」
「なんだか閉じ込められているような気分になって気が滅入るわ」

 確かに一度後宮に入ったならば、もうこの狭い世界で一生を終えるしかなくなる。

「あなたは新薬を作るのが上手だと聞いてるわよ」
「はあ……」

 目的の薬を作り終えている慶明にとって、久しぶりの新薬開発に心が躍る。

「お願いね」

 頼りなさげな様子を見せる陽菜の要望に慶明は思わず応えてしまった。

「しばらくお時間をください」
「ええ、待ってますわ」

 心の中では、もう一人の側室、茉莉が身ごもる前に早く作れと言いたいところだったが弱々しいほほえみを見せ、慶明を下げさせた。

28 家族
 無事子を産んだ後、朱京湖は体力をかなり奪われたようで、しばらく胡晶鈴が二人の赤ん坊の面倒を見た。京湖の夫である朱彰浩は、体調が戻るまで仕事を休み家事をしている。

「面倒をかけてしまってすまない」
< 56 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop