華夏の煌き
「そんなことないわ。こちらも助かっているもの。今はとにかく京湖が元気にならなければね」
「あの札のおかげで、いい薬が手に入っているから、時間の問題だと思う」

 薬師の陸慶明の札が役に立ち、薬局で上等な薬を手に入れることが出来ている。晶鈴は都を出る前に、無理やりにでも持たせてくれた札を今はとても感謝していた。
 二つ並んだ小さな籠からがさっと音が聞こえすぐに「ふぁうぅー」と赤ん坊の泣き声が聞こえた。

「あ、目が覚めたみたい」
「京樹のほうか」
「ええ。さきにそっちから乳をやるから、星羅が起きたらあやして待たせて」
「わかった」

 晶鈴はそっと彰浩と京湖の息子、京樹を抱き寄せ乳を含ませる。赤子にしてははっきりとした目鼻立ちで、眉も濃く男児らしい力強さがある。吸い付く力は星羅よりもかなり強い。

「京樹は元気ねえ」

 ごくごくと飲み、片方の乳房では飽き足らずもう一方の乳房にも吸い付いた。晶鈴は厭わずに、彼が満足するまで乳をのませた。ぷっくりとした唇を離したので、背中をさすりげっぷをさせてからまた籠に戻す。服装を直してから、彰浩に声をかけた。

「たくさん飲んだわ。星羅は?」
「まだ眠ってる。すまない。京樹にばかり……」

 彰浩は星羅の分まで飲み干してしまっているような、京樹の様子にすまなそうな顔をする。

「気にしなくていいの。ちゃんと星羅も足りてるのよ。どうやら私は乳がたくさん出る質のようね」
「ありがとう……」

 晶鈴は自分でも想像しなかったことだが、母乳がよく出るようで子供二人に十分に与えることができていた。丸々とした健康的な二人の赤ん坊を眺め胸元に手を置き笑んだ。

 しばらくすると星羅も目を覚ます。すぐに泣くことはなく目をぱちぱち瞬かせている。そっと籠に近づいて晶鈴は星羅の表情を見る。顔立ちは自分に似ているようだが、髪が父親の曹隆明の血を受け継いだらしい。まだ短くまばらだが、黒く濃く艶のある髪をしている。

「あなたの髪が伸びたら、毎日触っていたくなるんでしょうねえ」

 晶鈴は、隆明の滑らかでしっとりとした髪の毛の感触を思い起こす。会うたびに彼の美しい漆黒の髪に触れていた。手のひらを見ながら、そこに髪が流れていることを想像する。

「もう二度と触れられないかと思ったけれど……」

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