華夏の煌き
 甘い思い出が胸に広がった。しかし晶鈴はその想いに浸ることなく、星羅を抱き上げ乳をのませることにした。


 ひと月立つ頃に京湖もまともに起き上がることができた。残念ながら彼女はあまり乳が出ず、十分に赤ん坊に与えることができなかった。

「ごめんね……。だめな母ね……」

 京樹の黒い瞳を正視できずに京湖は自分を責めている。

「もう少し体力がつけばきっと出るようになるわよ。そんなに自分を責めないで」

 慰める晶鈴に、京湖は力なく首を横に振る。

「あなたに負担をかけてごめんなさいね。たぶん家系的にあまり出ないのだと思う」
「そうなの?」
「ええ。うちは、あの、私も、兄弟も人の乳をもらって育っていたし……」
「そうなのね」

 それ以上の話は聞かずに晶鈴はそっと、京湖のそばに座り、二人で赤ん坊を抱いてあやした。 

 同じ年の子を育てる、胡晶鈴と朱京湖はますますきずなが強まり、信頼関係も増していった。陶工である朱彰浩は陶器が焼きあがると町へ売りに行っている。日が暮れる前に帰ってきた彼は彼の馬と、ロバの明々を小屋につなぎ食卓に着いた。

「今日もありがとう。明々はいい子にしてたかしら?」
「ああ。明々がいると売り上げが上がるようだ」
「そうなの? 邪魔してなければよかったけど」

 今では食卓を5人で囲んでいる。晶鈴と京湖はお互いの子を預けあいながら、家事を行っていた。乳がよく出るようになるという煎じ薬で、京湖も息子に十分な母乳を与えることができるようになった。おかげで彼女は明るい笑顔も取り戻す。

「そうだ。町の占い師たちに晶鈴の復帰はまだかと尋ねられた」
「あら、忙しいのかしら」
「特別忙しくなってはいないようだが、晶鈴を訪ねて来るものがいるということだ」
「うーん。そうは言われてもねえ」
「一応伝えておくとだけ言っておいたから」

 考え込んでいる晶鈴に、京湖が提案をする。

「午前中くらい星羅をみてるから、仕事してきたら?」
「え、でも……」
「もう体は心配ないし、ちょこっとだけ行ってくるといいんじゃないかしら。彰浩もほとんどここで仕事しているし」
「そうねえ。京湖がそう言ってくれるなら行ってみようかな。お客は一人くらいだろうし」
「気晴らしでもしてきたらいいわよ」
「あら、京湖こそ、いいの? 町へ行きたくないの?」

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