華夏の煌き
 勧められて晶鈴も少し町の空気を吸ってみてもいいと思うが、京湖はあまり町へ行きたがらない。出産前に晶鈴が町へ占いの仕事をしに出かけているときも、京湖は町へ行きたいと一言も言わなかったし、様子も聞きたがらない。

「人混みが苦手なの。ここで彰浩と晶鈴と子供たちだけでいるとホッとするのよ」
「そうなのねえ」

 星羅も京樹もまだ眠っているばかりで大人しく、腹が減っていたりする身体的な不満がある以外ぐずることがなかった。こうして久しぶりに占いの仕事をするために町に行くことにした。

29 町と家と
 久しぶりの町は相変わらず雑多で賑やかで埃っぽかった。3人の占い師たちに会いに行くと、晶鈴の元気な様子にみんな安堵し、また仲間として歓迎させる。しばらく赤ん坊の様子やら雑談をしてから、晶鈴は自分の商売の場所へと向かった。
 ロバの明々は晶鈴のとなりで大人しく草を食んでいる。椅子に腰かけ、ぼんやりと行きかう人たちを眺める。目の前を様々な人種、色、香りがうつろっていく感じが好ましかった。久しぶりに一人になったと気が緩みかけた時「おや。久しぶりだな。ちょっと観てもらおうか」とふっくっらした中年の男が腰掛けた。

「お久しぶりね。今日は何を?」
「あんたの言う通り、麦の収穫が良かったもんだから貯えが増えたよ。そうだなあ。今特にこれってのはないが……」
「無いならいいじゃない」
「そうだが。ついついなあ」

 男は愛想よく照れ笑いをする。気取らず、率直で媚のない晶鈴は商売っ気のなさが逆に好感度を上げているようで、こうして悩みがなくても何か占ってもらおうとする者がいる。座っただけで、料金が発生する占い師もいるなかで、このように占わない晶鈴は珍しい存在だった。

「せっかくだし、健康でもみておくれ」
「わかったわ」

 こうして、3人ほど鑑定して、昼になったので町の食堂で食べて帰ることにした。

 食堂に訪れるのも久しぶりで、子供のことを気にせず食事をするのはどれくらいぶりだろうと人心地着く。この店の名物の平たく長い辛味噌味の麺を啜る。ふと気づくと器は白い陶器で青い小花模様が描かれている。

「あら、彰浩の器なのね」

 食堂なのに、家にいるような不思議な感覚もあった。改めてこの町に来てから、色々な出会いがあったなあと感慨深いものがある。占い師仲間に、生活を共にする仲間。

< 59 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop