華夏の煌き
「いつまでもこのまま過ごせるといいわねえ」
そうだと思いつき、みんなへのお土産にふかし饅頭を持って帰ることにした。
ロバの明々が引っ張る荷台に横たわっていたが、揺れが止まったので晶鈴は身体を起こした。
「ありがとう。もう着いたのね」
道を覚えている明々は「ホヒィ」と誇らしげに啼いた。形ばかりの木の柵のような門を開き、庭を通って馬小屋に明々をつなぐ。草をたらふく食べたようで、水を少し飲むと足を折って座りくつろぎ始めた。
「ごめんね。遅くなって」
家の扉を開けると、ちょうど子供たちが寝付くところだったようで、京湖が「しっ」と人差し指を唇に当ててみせた。息をのんでそっと中に入り、2つの籠を交互に覗く。赤い頬の丸々とした子供たちが穏やかに寝息を立てている。
晶鈴は隣の部屋に行こうと、京湖に指で指示した。食卓に饅頭を置くと、京湖が水を持ってくる。
「お土産。食べて」
「おいしそうね。疲れた?」
「お客はいたけどこっちは全然疲れてないわ。京湖こそ二人も面倒を見て疲れたでしょう」
「二人とも大人しいから平気。星羅にも私の乳を飲ませてやれるようになったから良かったわ」
「じゃあいっぱい食べて」
ふっくらしてきた京湖は嬉しそうに饅頭を頬張った。水を飲みながらふっと思わず晶鈴がため息をつくと「やっぱり疲れたんじゃないの?」と京湖は心配そうな顔をした。
「そうじゃないの。なんだか暑いのよねえ」
「ああ、そうなのね」
この地方で迎える初めての夏は、晶鈴にとって初めての暑さだった。都も、出身の北西の村も雪こそ降らないが、夏でも涼しい日が多く乾いていた。この町の初夏は蒸して暑い。
「私の着物を貸すわ。その着物は確かに暑苦しいでしょう」
「ああ、そういわれてみればそうねえ」
冬の間には大して気にならなかった服装の違いに改めて気づく。晶鈴は、都の太極府で支給された、厚手の濃紺の絹織物の着物を着こんでいる。保温保湿には優れているが、風通しは悪く汗をかくとじっとり不快な気がした。
京湖は織り目が粗く、風通しが良い着物を着ている。寒いときは枚数を重ねてきているようだが、風通しの良さと軽くざっくりとした生地は蒸し暑い夏に適しているようだ。
「服装は民族の個性というか、地方の気候にあっているものなのね」
「そのようね。都にいくとそんな着物が合うのね」
そうだと思いつき、みんなへのお土産にふかし饅頭を持って帰ることにした。
ロバの明々が引っ張る荷台に横たわっていたが、揺れが止まったので晶鈴は身体を起こした。
「ありがとう。もう着いたのね」
道を覚えている明々は「ホヒィ」と誇らしげに啼いた。形ばかりの木の柵のような門を開き、庭を通って馬小屋に明々をつなぐ。草をたらふく食べたようで、水を少し飲むと足を折って座りくつろぎ始めた。
「ごめんね。遅くなって」
家の扉を開けると、ちょうど子供たちが寝付くところだったようで、京湖が「しっ」と人差し指を唇に当ててみせた。息をのんでそっと中に入り、2つの籠を交互に覗く。赤い頬の丸々とした子供たちが穏やかに寝息を立てている。
晶鈴は隣の部屋に行こうと、京湖に指で指示した。食卓に饅頭を置くと、京湖が水を持ってくる。
「お土産。食べて」
「おいしそうね。疲れた?」
「お客はいたけどこっちは全然疲れてないわ。京湖こそ二人も面倒を見て疲れたでしょう」
「二人とも大人しいから平気。星羅にも私の乳を飲ませてやれるようになったから良かったわ」
「じゃあいっぱい食べて」
ふっくらしてきた京湖は嬉しそうに饅頭を頬張った。水を飲みながらふっと思わず晶鈴がため息をつくと「やっぱり疲れたんじゃないの?」と京湖は心配そうな顔をした。
「そうじゃないの。なんだか暑いのよねえ」
「ああ、そうなのね」
この地方で迎える初めての夏は、晶鈴にとって初めての暑さだった。都も、出身の北西の村も雪こそ降らないが、夏でも涼しい日が多く乾いていた。この町の初夏は蒸して暑い。
「私の着物を貸すわ。その着物は確かに暑苦しいでしょう」
「ああ、そういわれてみればそうねえ」
冬の間には大して気にならなかった服装の違いに改めて気づく。晶鈴は、都の太極府で支給された、厚手の濃紺の絹織物の着物を着こんでいる。保温保湿には優れているが、風通しは悪く汗をかくとじっとり不快な気がした。
京湖は織り目が粗く、風通しが良い着物を着ている。寒いときは枚数を重ねてきているようだが、風通しの良さと軽くざっくりとした生地は蒸し暑い夏に適しているようだ。
「服装は民族の個性というか、地方の気候にあっているものなのね」
「そのようね。都にいくとそんな着物が合うのね」