華夏の煌き
 青ざめる京湖に、彰浩は希望を持つような言葉を投げ掛けることはできなかった。もう一度探しに行こうとすると、警備兵の男がやってきた。

「これがロバがいたあたりの茂みに落ちていたんだが晶鈴さんのものかい?」

 大きな茶色い布は、四角に折りたたまれ手のひらほどの大きさになっている。京湖はその布切れがもちろん晶鈴の持ち物ではないことが分かった。むしろ自分が良く知っている布切れだった。縦糸が太く、横糸は細い、独特の織物で京湖の出身地特有の織物だった。京湖と彰浩の着物も同じ生地の織物だ。

「いいえ……」

 首を振る京湖に、警備兵の男は「ちょっと苦そうなにおいがするんだよなあ」と布切れをひらひらさせる。ますます京湖は顔を暗くさせる。彰浩が警備兵の男に町には何か変化がわずかでもなかったかと尋ねた。うーんと小首をかしげながら「ああ、そうだ」と男は掌をこぶしでたたく。

「あんたたちと同じ民族の人がここ数日増えていた気がするなあ。そのひらひらした衣装の男をよく見たよ」

 その言葉を聞くと、京湖はへなへなと土間に座りこんんだ。

「京湖……」
「大丈夫かい? 奥さん。一応もう少し探すが、野犬や獣が出るといけないから適当に切り上げるよ。見つけたら報告に来るから」
「よろしく頼む」

 警備兵が帰っていったあと、京湖は涙をはらはら流しながら「着物を貸さなければよかった……」とつぶやいた。彰浩は何も言わず、彼女の身体を起こし椅子に腰かけさせる。
 晶鈴は、京湖と間違えられてさらわれたのだと二人は確信している。さらった相手に晶鈴が人違いだと言ってくれたら、なんとか戻ってこれるかもしれないが。

「きっと晶鈴は黙って私の身代わりをしてしまうわっ!」

 彼女の性格だとそうだろうと、京湖は申し訳なさで胸がつぶれそうだった。そこへ「ふああぁあんっ」と京樹の泣き声が響く。

「ああっ! 乳をやらねば!」

 動揺と不安から子供の命を確保することに尽力する。京樹と星羅に食事を与え、育て上げねばという強い気持ちが彼女を支配する。彰浩も晶鈴を救い出すことと、京湖と子供たちを守るための手段を考え始めた。
 

 
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