華夏の煌き
 着心地の良い着物は晶鈴をより身軽にさせる。カード使いの占い師にもよく似合っていると言われた、それと同時に最近その服装の人間を何人か見かけるとも聞いた。あらゆる民族が交流する、国境なので晶鈴は特に気に留めず、ロバの明々を伴って占いの仕事をしていた。
 何人か鑑定をした後、食堂に寄り、土産も持った。赤ん坊だった星羅と京樹はすくすくと育ち、乳から粥へと食事が変わり始めている。町から家までロバの足で、半時ほどだった。顔見知りの門番に別れを告げ、しばらく歩き見えなくなる頃、荷台にごろんと横たわった。

「遠慮しないで明々をもらっておいて良かった。ふああ。ちょっと眠い、かな。着いたら教えてね……」

 晶鈴は揺れる荷台に眠気を誘われ、そのまま眠ってしまった。少しだけのうたた寝のつもりがかなり眠ってしまったと思ったときに、これはうたた寝ではなかったことを思い出す。

 眠りについて目を閉じたころ、顔を大きな布切れで覆われた。苦そうな薬草の匂いだったと思う。そして手足を縛られていることにも気づいた。体中が痺れているようだった。

「ここ、どこ、なの……」

 真っ暗で光も差さない。木のきしむ音で、自分は木箱に入れられ運ばれているのだとわかる。暴れて大声を出そうにも、身体の自由が利かなかった。

「星羅……」

 一瞬の木の隙間から見えた光で、子供の顔を思い浮かべる。しかし意識はまた途切れ、晶鈴は暗闇の中に落ちていった。


 やっと薬が抜けたようで再び目を覚ますと、ひそひそと話声が聞こえる。手には力が入り、声も出せそうだがここはおとなしく外の様子をうかがうことにした。

「褒美はどれぐらいもらえるだろうか」
「あまり期待するな。大臣はがめついから」
「しばらくは遊んで暮らせるさ」

 どうやら誰かの依頼で自分はさらわれた様だ。しかし、まだ理由はわからなかった。

「そろそろ箱から出して女に飯でも食わせないと」
「ああ、そうだな。丁重に扱えと言われているからな」

 乱暴なことはされないようで少し安心した。がたがたを蓋がとられ外が見えた。ベージュ色のテントらしい天井が見える。

「さて、お嬢さん。起きてくんな」

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