華夏の煌き
野太い男の声のほうに目をむけると、京湖と彰浩と同じ民族であろうガタイの良い男が見えた。手足を縛られているのでにじっていると「ああ、それを外してやらんと」とすんなり手と足を自由にされた。
「ここは、どこなの?」
「さっきコーサラを通過したんでさ。今日はここで野営ですな」
「こうさら……」
晶鈴は頭の中に地図を描く。確かその場所は、最後の町から更に南西に向かった他国のはずだ。地図には『交沙良』と書かれていたはずだ。
「ガンダーラでだんながお待ちかねですよ」
にやにやした男が付け加える。どうやらここから北西に進路を変えるつもりのようだ。
「どこに逃げてもだんなからは逃げられやしないですからね。お嬢さんもあきらめたほうがいいですよ」
男たちは『だんな』と呼ぶ人物から自分をさらうように命令されているのだろう。なぜだろうと考えると、一つだけ思いつくことがあった。自分を朱京湖と間違えているのだ。『願陀亜羅』は晶鈴にとって縁もゆかりもない国である。
男たちは京湖の顔をどうやら知らないようだ。ここで、人違いだと言えば解放されるかもしれない。しかし、男たちは報酬を目当てに京湖をさらおうと町に向かうだろう。そうなれば、京湖と彰浩、そして京樹はどうなるのか。『だんな』はおそらく京湖のみを欲しているだろうから、彰浩と京樹がどうなるかわからない。最悪のことを考えると晶鈴は言い出せずにいた。
「私が京湖の振りをしていれば時間が稼げる……」
晶鈴自身よりも、京湖たちのほうがこうなった事情をよく理解しているだろう。すでに町を出てどこかへ逃げているかもしれない。
「星羅……」
子供を粗末に扱うことはおそらくないだろう。
「また会えるかしら……」
幻だったような家族を思う。今、自分のそばに親しい人は誰もいない。晶鈴は目を閉じて一人きりになったことを感じる。
「占うときのよう……」
占いをするときには、だれも自分のそばにおらず、ポツンと空中に浮いたような心地になる。それが晶鈴にとって自然なことだった。寧ろ、誰かと愛着していた時のほうが夢の中の出来事のように感じている。
肌を合わせた曹隆明も、親しかった陸慶明もいつの間にか人生から消えた。胎内からずっと密着していた星羅もまるで仮想現実のような感覚に陥る。
「そう。私は占い師なのだ」
「ここは、どこなの?」
「さっきコーサラを通過したんでさ。今日はここで野営ですな」
「こうさら……」
晶鈴は頭の中に地図を描く。確かその場所は、最後の町から更に南西に向かった他国のはずだ。地図には『交沙良』と書かれていたはずだ。
「ガンダーラでだんながお待ちかねですよ」
にやにやした男が付け加える。どうやらここから北西に進路を変えるつもりのようだ。
「どこに逃げてもだんなからは逃げられやしないですからね。お嬢さんもあきらめたほうがいいですよ」
男たちは『だんな』と呼ぶ人物から自分をさらうように命令されているのだろう。なぜだろうと考えると、一つだけ思いつくことがあった。自分を朱京湖と間違えているのだ。『願陀亜羅』は晶鈴にとって縁もゆかりもない国である。
男たちは京湖の顔をどうやら知らないようだ。ここで、人違いだと言えば解放されるかもしれない。しかし、男たちは報酬を目当てに京湖をさらおうと町に向かうだろう。そうなれば、京湖と彰浩、そして京樹はどうなるのか。『だんな』はおそらく京湖のみを欲しているだろうから、彰浩と京樹がどうなるかわからない。最悪のことを考えると晶鈴は言い出せずにいた。
「私が京湖の振りをしていれば時間が稼げる……」
晶鈴自身よりも、京湖たちのほうがこうなった事情をよく理解しているだろう。すでに町を出てどこかへ逃げているかもしれない。
「星羅……」
子供を粗末に扱うことはおそらくないだろう。
「また会えるかしら……」
幻だったような家族を思う。今、自分のそばに親しい人は誰もいない。晶鈴は目を閉じて一人きりになったことを感じる。
「占うときのよう……」
占いをするときには、だれも自分のそばにおらず、ポツンと空中に浮いたような心地になる。それが晶鈴にとって自然なことだった。寧ろ、誰かと愛着していた時のほうが夢の中の出来事のように感じている。
肌を合わせた曹隆明も、親しかった陸慶明もいつの間にか人生から消えた。胎内からずっと密着していた星羅もまるで仮想現実のような感覚に陥る。
「そう。私は占い師なのだ」