華夏の煌き
 外敵と戦乱もなく穏やかな数年が過ぎる。晶鈴は着実に力をつけていき、朝廷にわずかながら貢献していった。彼女の専門は数か月の状況を繊細に観ることができた。本来は、王族に関することのみを観るが、こっそりと心付けを渡し、個人的なことがらを観てもらうものを多数いた。その行為は暗黙の了解で、とくに禁じられていなかった。彼女の技術も向上するし、多少の臣民の把握にもつながることだったからだ。相談してくる内容が、反政府に関することでなければ特に問題はない。

 「晶鈴どの、晶鈴どの」

 ふらふら歩いている晶鈴に茂みから、手をこまねくものがいる。腰まで伸びたつややかな栗毛を翻し、晶鈴は澄んだ泉のような瞳を向ける。振り向くと、昇進したばかりの図書を管理する張秘書監が赤ら顔で明るい顔を見せる。

「張秘書監、どうしました?」
「ちょいとお礼に。おかげさまで長官になることができました」

 もそもそと懐から布にくるまれた金でできた貝貨をとりだす。

「ああ、もうそんなにいいわ。わたしが何かして長官になったわけじゃないから」
「いえいえ、どうぞどうぞ。もう一つ相談が……」
「そうなの? 何かしら?」

 張秘書監はきょろきょろして、袖で隠すように耳打ちする。

「娘に縁談が来てまして、それが3件いっぺんに来たのですよ。どこを嫁ぎ先にしたらいいものかと……」
「どこでも選んで大丈夫? お断りできないとこはないのかしら」
「それは大丈夫です。娘も私の判断でよいと言っておりますし」
「そうなのね。じゃあ観てみます。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます!」

 占い師見習いから占い師助手になっている。もう数年すれば占い師女博となり、後進を育てる立場にもなるだろう。今は見習いの宿舎から小さいながらも一つの小屋を与えられている。そして一人だけ身の回りの世話をする年若い下女がついていた。静かな庵の周囲には、色々な花が植えられているが、香りのするものはない。草原育ちの彼女にとってかぐわしい香りは、占いの邪魔になるのだった。

「そちらへどうぞ。春衣。ちょっと外で邪魔が入らないように見張ってて」
「わかりました。晶鈴さま」

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