華夏の煌き
彫の深い顔立ちの京湖は、心配そうな表情の陰影を深く落としながら部屋を去った。
「ごめんなさい。かあさま」
内緒にしていることを謝り、罪悪感のため、言われるとおりに眠ることにした。寝台で横たわり、うたた寝なのどしたのは初めてだと思った。ここのところなぜだか身体がだるくて、眠気がある。睡眠は足りているはずなのに疲れがとれない。絹枝老師も同じように倦怠感と頭痛が最近多いと愚痴をこぼしていた。
「季節のせいかしらね」
自分の体調よりも、書物の中のほうに気が向いてしまう二人は体調の異変を深く気にすることはなかった。
春衣は陸慶明から処方された睡眠薬を数滴、絹枝と星羅に出す茶に落とす。半年前に慶明に、不眠を訴えたところもらった薬だ。陸家にとって大事にな春衣だからと、特別に与えられた。医局長直々に脈をはかられ、診察されるのは王族や高官僚くらいだ。その身分の高い慶明に診察されることよりも、手首や、目の中を覗かれたりする際の頬への接触のほうが春衣にとって特別なことだった。
簡単に薬をもらうことなどできないと思っていたので、春衣はあらかじめ一週間以上わざと夜更かしをして睡眠時間を削っていた。触れられるときの動悸もいい塩梅に働き、慶明は睡眠薬を処方してくれたのだ。
服用は寝る前だけに限るとされている。日中は眠気のせいで事故を起こしやすく危険だからだ。春衣は日中に飲むことも、もちろん夜、寝る前に飲むこともない。
この睡眠薬は星羅に飲ませるためだ。本当は毒薬で一気に抹殺したいところであったが、毒薬など使おうものなら確実に慶明にばれてしまうだろう。毒薬でうまく星羅を抹殺し、自分だけが罪をかぶるのならまだ良いほうだ。このことが公に明るみになるならば、使用人が毒薬を持ちだしたとして、主人の慶明も罰せられる。医局長である彼の身分であれば罪は軽くないだろう。薬師の身分剥奪か、何年も刑に服すことになるかもしれない。
そんなことを春衣は望んでいない。慶明にはいつまでも手の届かなかった胡晶鈴を想い、そのことを知っている自分と秘密の共有者でいてほしかった。彼を、晶鈴を愛している彼ごと愛している自分に、いつか気づいてくれるようにと願う。
「ごめんなさい。かあさま」
内緒にしていることを謝り、罪悪感のため、言われるとおりに眠ることにした。寝台で横たわり、うたた寝なのどしたのは初めてだと思った。ここのところなぜだか身体がだるくて、眠気がある。睡眠は足りているはずなのに疲れがとれない。絹枝老師も同じように倦怠感と頭痛が最近多いと愚痴をこぼしていた。
「季節のせいかしらね」
自分の体調よりも、書物の中のほうに気が向いてしまう二人は体調の異変を深く気にすることはなかった。
春衣は陸慶明から処方された睡眠薬を数滴、絹枝と星羅に出す茶に落とす。半年前に慶明に、不眠を訴えたところもらった薬だ。陸家にとって大事にな春衣だからと、特別に与えられた。医局長直々に脈をはかられ、診察されるのは王族や高官僚くらいだ。その身分の高い慶明に診察されることよりも、手首や、目の中を覗かれたりする際の頬への接触のほうが春衣にとって特別なことだった。
簡単に薬をもらうことなどできないと思っていたので、春衣はあらかじめ一週間以上わざと夜更かしをして睡眠時間を削っていた。触れられるときの動悸もいい塩梅に働き、慶明は睡眠薬を処方してくれたのだ。
服用は寝る前だけに限るとされている。日中は眠気のせいで事故を起こしやすく危険だからだ。春衣は日中に飲むことも、もちろん夜、寝る前に飲むこともない。
この睡眠薬は星羅に飲ませるためだ。本当は毒薬で一気に抹殺したいところであったが、毒薬など使おうものなら確実に慶明にばれてしまうだろう。毒薬でうまく星羅を抹殺し、自分だけが罪をかぶるのならまだ良いほうだ。このことが公に明るみになるならば、使用人が毒薬を持ちだしたとして、主人の慶明も罰せられる。医局長である彼の身分であれば罪は軽くないだろう。薬師の身分剥奪か、何年も刑に服すことになるかもしれない。
そんなことを春衣は望んでいない。慶明にはいつまでも手の届かなかった胡晶鈴を想い、そのことを知っている自分と秘密の共有者でいてほしかった。彼を、晶鈴を愛している彼ごと愛している自分に、いつか気づいてくれるようにと願う。