華夏の煌き
 晶鈴は中に張秘書監を案内し、下女の春衣を外に出す。二人は履物を脱ぎ、低い卓の前に腰掛ける。小さな小屋ではあるが、硬くしなやかな材木のおかげで、きしむ音はしない。防音されているようで全くの無音の部屋になっている。長い袖の中から、濃紺の絹織物の包みをとりだし、丁寧に広げる。広げた布の中にはまた一つ布袋が入っている。手のひらの乗るほどの布袋を膝に置き、晶鈴は婿候補の名前を尋ねる。

「苗字は言わなくていいわ。余計なことは知りたくないから」
「は、はあ。じゃ、じゃあ申し込んできた順に――幸、凱、頼です」

 うんうんと聞きながら、晶鈴は小袋に手を差し込み、一つ、また一つと紫色の小石をとりだす。3列に3段並べ見比べる。

「そうねえ。幸さんはあまり出世はしないけど家を大事にします。凱さんは出世するけど家にあまりいない。頼さんは食うに困らないけど、人任せにするわ」

 晶鈴の言葉を聞きながら、張秘書監はうーんと唸る。

「これは誰を選べばいいんじゃ」
「そうねえ。三者三様ねえ」
「晶鈴殿なら誰にします?」
「えー。私? さあー。聞かれても困るわ。私のことじゃないし。決めるのは当事者でしょ」
「まこと、まこと。おっしゃる通りで」

 ふうっと大きなため息をつき張秘書監は立ち上がる。

「あら、お帰り? お茶は?」

 顔の横で手を振り、張秘書監は「ちょっと夫人と相談します」と難しい顔で頭を下げて出ていった。晶鈴は静かに笑んで恰幅の良い後姿を見送った。
 石を片付けていると、春衣が戻ってきた。晶鈴よりも一つ若い彼女は、尊敬のまなざしを向ける。

「晶鈴さまのように何か才があれば、結婚で夫選びに困ることはないんでしょうね」
「そう? どうして?」
「夫がいなくても生活ができるからですよ」
「うーん。確かにそうだけど、だれかと一緒のほうがいいと思うわよ?」
「そうですか? わたしの母は、父が酒にだらしない人でしたから苦労の連続でしたよ。母に生活の糧を得る手段があればよかったのですが」

 春衣は母が夫の経済に頼るしかできない生き方を見てきたので、宮廷で下女という職を求めてきた。

「晶鈴さまなら、殿方に勝るとも劣らない出世が見込めますしね」
「さあ。このまま助手かもよ」

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