華夏の煌き
 連続して睡眠薬を使えば、怪しんだ慶明が自分の犯行にたどり着いてしまうだろう。しばらく大人しくすることにして次のチャンスをうかがうのだった。
 
44 秘密
 2人で馬を走らせ、見晴らしの良い高台に上る。馬をつなぎ休ませる間に「ほら」と明樹は、星羅に剣を渡した。受け取った星羅はさっと構え、少し腰を低く落とした。

「やあっ!」

 明樹の張りのある掛け声に反応して、振り下ろされた剣を十字を組むように受け止める。上から押さえられた力をぐっと跳ね返し、すっといなすと星羅も明樹に切りかかる。しばらく剣が重なり合う高い金属音が聞こえていたが「あっ!」という星羅の声で終了した。星羅が剣を落としたのだった。

「星妹。もうちょっとだったな」
「はあ、はあ、はあっ。残念」
「ほら、水を飲むといい」

 明樹は竹筒の水筒を渡すと、星羅は喉を鳴らして飲んで返した。懐から手ぬぐいを出し、汗をぬぐうとちょうどやさしい風が吹いて爽快な気分になった。

「明兄さまは、学舎一番の腕前ですね」
「そりゃあ、学舎ならね。兵士見習いになったらどうなるか……」
「兵士見習いになってもきっと強いはずです」
「だといいな」

 学者肌の陸家なのに、親の期待とまるで違う兵士になることを明樹は希望している。学問においても彼に敵う者はいないので、国家の主要な試験には全て合格するだろうが、彼は筆ではなく剣をとる。
 兵士の試験は一応、読み書きができる程度の筆記があるが重要なのは、実技だ。剣でも槍でも弓でも何でもいいが、武器による実技がある。明樹は父親の慶明に似て大柄で細身であるが力が強い。武器は槍を選んでいる。

「星妹はもう話したのか?」
「いえ、まだ……」
「早いほうがいいぞ。俺ももうちょっと遅かったら医局の試験を受けされられただろうな」

 将来の進路の希望を星羅はまだ家族に話せていなかった。

「しかし女兵士は結構多いけど、軍師見習いとは難しいところに目を付けたな」
「ええ難しいのはわかってます」

 臣下は行政をつかさどる宰相が最高位で、軍事をつかさどる上将軍が次ぐ。大きな戦争がない今、古代ほどの活躍はないが軍師という地位がある。活躍がないといっても名軍師として世に名が出ないだけで、それは宰相も上将軍も同じことだった。
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