華夏の煌き
ただ軍師は常に世の中の動向に機敏に頭を働かせ、国家のためになる策を講じなければならない。膨大な知識と応用ができ、宰相にも上将軍にも献策する存在なのだ。戦争がないと言っても、兵法に強く実践もある程度できる必要があった。
 
 星羅が軍師という職業を知った時、これこそ自分がなりたい、なるための職業だと思った。高祖や古代の兵法家の書物を読みふけり、過去の戦乱と治世、処世術を学習してきた。おかげでその副産物か、囲碁が強くなっていった。
 学舎の催しに、男女混合の学生囲碁大会があり、星羅は準優勝だった。そしてその時の優勝者が明樹だ。

 このことが2人を急速に接近させた。明樹は、星羅が自分の屋敷を出入りしていることを知っていたが、最初から関心を寄せていたわけではない。囲碁で自分をかなり追い詰めた彼女に改めて関心を持ち、会話が増えていった。話していると他の女学生とも、また同級生とも違う刺激と面白さを感じていた。星羅が軍師希望なのを知っているのは明樹だけだ。知識は母の絹枝がいるので、実技を明樹がこっそり受け持っているのだ。

「星羅が軍師になったら囲碁は負けそうだな」
「どうでしょう。明兄さまには本当に強さというものを感じます」
「強い、か。それって強引ってことだろ?」
「さあ?」

 笑んでいる星羅に、明樹は照れ笑いをした。囲碁大会で正攻法でうまいのは星羅のほうだった。明樹は強引で力任せな勝ち方だったと思っている。しかしそんな勝ちかたをさせた星羅に一目を置かずにいられないのだ。

「で、軍師になってどうする?」
「母の行方を探れるかもしれないし、それに……」
「それに?」
「いえ、それだけ」

 星羅が口をつぐむが明樹にはわかっている。彼女の母、胡晶鈴が外国で不遇な目にあっていれば救い出すつもりなのだ。

「俺が上将軍、星妹が軍師になればどんな敵でも打ち破って、母君を救い出せるさ」

 嬉しそうに首を縦に振り頷く星羅を、明樹はまぶしく感じた。

「さて、帰ろう」

 吹く風がひんやりしてきた。馬も十分草をはみ帰ろうといなないている。夕日の中を馬を走らせていると、一番星がきらりと光っていた。

45 進路
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