華夏の煌き
 14歳になると女学生は進路を尋ねられる。15歳になると国の主要な試験が受けられる。この学舎の残るものは、将来教師の道を志すものと、役所に入るための試験に受かるまで居続けるものだった。それでも3年ほど教師と役人の試験に落ち続けると、あきらめて別の道へと進んだ。輿入れが決まっているものは、家庭学を学ぶべく花嫁学校へと移行する。庶民の娘の多くは、役所などの事務的な仕事に就いた。
 絹枝はそれぞれの女学生と個人面談を終え、最後に星羅と面談する。

「星羅さんはどのような進路を望んでいるの? あなたならどんなの道も考えられそうね」
「教師の仕事も素晴らしいですね。でも、わたしは、あの……」

 珍しくはっきり言わずもじもじしている。

「どんなことでもはっきりおっしゃいな」
「あの、軍師見習いの試験を受けたいと」
「え? 軍師見習い?」
「本気なの?」
「本気です」
「そう……」
「やっぱり無理そうでしょうか。わたしじゃ」
「いえ、無理ではないわ」

 星羅の学力なら軍師見習いの試験は合格できるだろう。軍師という職に就きたい気持ちも理解できるし、合っている気もする。時代が時代なら、国で最も輝かしい活躍を見込めるやりがいのある仕事だ。
しかし今の平安な時代では、昼行燈のようなぼんやりした窓際族のような職である。現在の数名の国家軍師は誰一人、公で名前を知られることがない。献策するほどの国難がないので、諸外国や従属国との交渉などを行う外交官のような仕事が主だった。

 絹枝にしてみれば、教師や薬師などはどんな時代にでも必要だと思うが、もう軍師は斜陽だと思う。なくてもよいのではないかと進言したいくらいだった。
 将来が明るくないのに、試験は国で一番難しい。この王朝を開いた武王が軍師を一番素晴らしいものとし、彼自身が最高の名軍師と呼ばれる所以かもしれない。軍師がなくなるということはこの国のアイデンティティも無くなることに繋がるのかもしれなかった。
 さらに軍師見習いになってから、主に寮生活になるが武芸を磨き、兵法書を読み、議論し、過去の戦のデータをもとに各々が国主となり中華を統一していくシミュレーションを行う。絹枝に言わせれば、机上の空論どころか遊戯にみえる。戦国時代ではない世の中に無用の長物とは軍師だろう。

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