華夏の煌き
 どの職業にも性より才が重要視されるので、女性の進出も目覚ましい。薬師も教師も兵士も半数近く女性がいる。しかし王朝が開いていらい今まで女性が軍師に着いたことはなかった。現実的な女性にとって、先細りの軍師職など全く魅力を感じないのであろう。

「学舎で試験勉強を続けてもいいけど、どうする?」
「ここだと兵法の勉強はできないので家でやります。先生から写させてもらった兵法書で」
「そう。剣技とかは? 馬術もあるでしょう」

 軍師試験には、筆記と武芸の実技もあった。

「あ、それですけど、明兄さまに稽古をつけてもらっています」
「まあ!」

 星羅が本気で軍師を目指し、兵士見習いになっている息子の明樹とともにひそかに準備をしていたことに、絹枝は苦笑した。

「すみません……」
「いいの。本気なのね……」
「明兄さまも応援してくれています」
「明樹さんもね……」

 若者というものは親の期待に応えてくれないものだと絹枝は改めて悟る。絹枝の希望では、星羅は教師になって明樹と結婚し落ち着いた暮らしをしてほしかった。軍師見習いになれば軍師にたどり着くまで、最短で何年かかるだろうか。絹枝が知ってる限り、20代で軍師になったものは知らない。

「あの、星羅さんは結婚についてどう考えているのかしら?」

 進路の面談だというのに、こんな話を持ちだしてしまった自分を恥じたが、聞かずにおれない。

「結婚ですか?」
「ええ」
「まったく考えてません」
「……」

 見習いでも助手でも、途中で結婚を禁じられていることはないので見習い同士で結婚することもあったが、星羅はそういう可能性がなさそうだ。明樹もきっとある程度の地位を築くまで、縁談には目もくれないだろう。

「婚約でもさせておこうかしら?」
「はい?」
「あ、いえ、こっちのこと」

 男しかいないところで紅一点の星羅は、もしかしたら明樹以外の男のもとへ嫁いでしまうかもしれない。明樹も積極的な女兵士に言い寄られてしまうかもしれない。自分の縁談には全く気を揉まなかった絹枝だが、子供のことになると色々考え始め、妄想が膨れ上がってしまう。

「あの、先生? ほかに何か?」
「軍師だけは女人がいないのよ。それが心配で」
「ああ、そのことですか。明兄さまにも言われました。なのでもし軍師見習いになったら男名をつけて男装しておくとよいと」
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