カモミール
 思いのほかよく眠れたようで、朝はすっきりと目覚めることができた。いつものように身支度を整えるが、いつもと違うシャンプーを使ったせいかショートボブの髪がゴワゴワしてうまくまとまらず苦戦した。今日シャンプーとコンディショナーを買いに行こう。

 簡単にメイクを済ませて店の方に行くと、キッチンに真崎さんの姿があった。昨日と同様に髪をオールバックにし、サングラスと白いシャツに黒いカフェエプロンという出で立ちである。そういうスタイルなのだろう。まだ朝早いためか店内に客はいない。昨日の雨とは打って変わって、通りに面した窓から眩しい朝日が差し込んでいた。

「おはようございます」

「おう、おはよう。昨日はよく眠れた?」

「はい。おかげさまで」

 私はカウンター席に座った。

「何にする?モーニングセットは3種類あるけど」と彼は私にメニュー表を示して言った。

「そしたら、Cセットでお願いします」

 トースト、ハムエッグ、サラダ、フルーツのセットだ。この3つのメニューの中で一番がっつり目だ。

「好きなコーヒーか紅茶選んでいいよ」

「アメリカンブレンドで」

 コーヒーはやはりよく分からないので、昨日頼んだものと同じものにした。

 彼は手早く注文の品を作ってくれた。

「はい、お待ちどおさま」

 いつもはシリアルだったりゼリー飲料だったり、適当に済ませていたので、こんな朝食は久しぶりだった。他に客のいない喫茶店でこうやってモーニングを食べるという非日常が、これからは日常になるのかと思うと不思議な気分だ。

「うまそうに食うね」

「ふぇ、ほうえふか?」

 口いっぱいにトーストを頬張っているときに話しかけられたので、私がなんて言ってるのか分からなかったかもしれない。彼は頬杖をついてまじまじと私を見てくる。食べづらいんですが…。なんか微笑んでるし。口元しか分からないけど。
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