カタストロフィ
ダニエルの腕から力が抜け、重たい音を立てて本が床に落ちた。
今まで借りてきた人たちがシワをつけたのか、あるところでめくれていたページが止まった。
ユーニスとダニエルの目に飛び込んだのは、衣類を乱しながら女とまぐわう主人公アンブロシアの挿絵である。
隆起した男根が花園に飲み込まれ、悦楽の表情を浮かべる女のその絵はどこまでも卑猥で、知識がありなんなら経験もしているユーニスでも、その場で固まってしまった。
言葉を失い立ち尽くしたユーニスを現実に引き戻したのは、顔面蒼白になり両手で口をおさえたダニエルだった。
「うっ!」
慌ててハンカチを取り出してダニエルの口元にあてたその瞬間、彼は勢いよく嘔吐した。
「うおえええっ!!!」
胃の中をすべて空にする勢いで次から次へと吐瀉物が溢れ出て、みるみる床を汚していく。
自分が吐き出したものがユーニスのハンカチを、商品である本を、店の床を汚していくことに動揺したのか、ダニエルの瞳は不安定に揺れた。
それを見逃さなかったユーニスは、再び禁忌を侵す。
ダニエルの背中をさすり、移動を促したのだ。
「ごめんなさい、後でいくらでも怒ってちょうだい。それより今はこっちへ。床と本をダメにしてしまったのは私が謝っておくから、外の空気を吸って待ってて」
吐瀉物独特のすえた匂いが店内に立ち込めてきたその時、本を持ってきた店主が鼻を押さえて叫んだ。
「なっ、なんだこれは!?」
「さあ、外に出て。まだ気持ち悪かったら我慢しないでしっかり吐くのよ。道の方なら多分そんなに迷惑がかからないわ。こらえたりしたらもっと酷くなるから、波が来たら逆らわずに出して」
ハンカチはもうないため、服の袖でダニエルの口元を拭うと、ユーニスは足早に店内に戻った。