カタストロフィ
「いや、減俸処分をと申し出てきたのはブルスキーノとハワードでね。フレッチャー先生に詳しい事情を手紙で尋ねたのだが、彼女はただ一言〝ダニエルの体調管理がきちんと出来なかった〟としか書いてこなかったんだ」
「先生らしいですね」
余計なことは言わず、ただ粛々と自分のなすべきことをするユーニスの姿を思い浮かべ、ダニエルは思わず微笑みかけた。
しかし父親が目の前にいることを思い出し、緩みかけた表情をサッと引き締める。
どうもユーニスのことになると表情筋がだらしなくなるが、それは1人の時だけに留めておかねばならない。
幸い、何か考え込んだ様子のジェイコブは息子の異変に気づくことはなかった。
「わかった。メアリー達の分と合わせてフレッチャー先生の分も仕立てよう。ちょうど明日仕立て屋が来るから、先生に午後からお時間を頂きなさい」
「ありがとうございます」
「ダニエル、ジェーンには私から言っておく」
急に母親の名前が出てきたことに驚いたダニエルだが、瞬時にジェイコブの意図を察した。
兄妹の中で唯一虐待を受けていたこと、体が弱かったことから、ジェーンはダニエルに対してとりわけ過保護である。
パブリックスクールに進学することですら涙を流していたのに、留学の話をすれば半狂乱になるかもしれない。
「父上、ありがとうございます。助かります」
「お前がジェーンを苦手に思っているのはわかる。あまり馬が合わないのだろう?だが、疎んじてはくれるな。あれでいて、きちんとお前のことを愛してはいるのだ」
これまで一度も言葉にも態度にも出したことがなかった母への気持ちを看破され、ダニエルは驚くと同時に気まずくなった。
そして、血のつながりではなく愛を理由に、疎むなと諭す父の優しさに心が温まった。
「そのお言葉を肝に銘じます」